新規事業の魅力とリスク
新規事業の立上げに魅力を感じる起業家や企業は多いでしょう。新規事業の立ち上げは、自分のビジョンを形にできるだけでなく、独自の価値観やアイデアといった創造性を広く知ってもらうことにつながります。事業が成功した場合には特定の分野において先駆的として名をはせるかもしれません。
新規事業の成功は大きな利益を生む可能性があります。新規事業は主に市場のニーズやトレンドに応えるために生まれます。そのため、成功する事業は高い需要と爆発的な成長力を潜在的に内包していることが多いからです。また、新しいアイデアは市場に革新をもたらすことがあります。場合によっては国家や社会に革新的影響を与えるかもしれません。利益や名声が得られるだけでなく、革新的な変革を生み出す可能性が存在していること、これが新規事業の魅力といえるでしょう。
一方で新規事業の立ち上げはリスクも伴います。
新規事業では未知の領域に挑戦することが多く、事業の運営や成長に必要なお金の額や手法の予測が困難です。市場の反応や需要の予想も難しいといえるでしょう。手探りで事業を進めなければならないリスクが存在しています。くわえて見通しの悪さは、銀行などからの融資を困難にします。新規事業には常に資金不足のリスクがともなうといえるでしょう。くわえて地域や業界によっては新規事業によって未知の規制が導入されるかもしれません。その場合、既存の判例や慣習では対処できない課題への対処が求められます。これは事業の継続における大きなリスクといえるでしょう。
このように新規事業には大きな魅力と失敗のリスクが付きまといます。新規事業を始めるには、起業への冒険心だけでなく、慎重な計画と柔軟な思考能力が求められます。
新規事業の失敗の主な原因
新規事業を成功させるには、失敗につながる原因を最小限におさえながら、リスクに対処する必要があります。では、何が新規事業を失敗へと追いやるのでしょうか。主な失敗の原因としては次の3点を知っておくことが大切です。
1つ目は「事業のノウハウがない」ことです。新規事業には新しいノウハウが必要になります。既存事業の経験や実績があっても、それが必ず役に立つとはいえません。2つ目は「資金が足りない」ことです。市場調査やデータ分析、商品やサービスの開発など、新規事業には多くの費用が必要です。しかし新規事業が安定利益を生み出すまでには時間がかかります。十分な資金が用意できていない場合や、計画に不慮の事態が起きてより資金が必要となったとき、資金が不足して事業撤退となるケースが新規事業にはよく見られます。3つ目は「ニーズ予測の失敗」です。どれだけ素晴らしいアイデアをもって新規事業を立ち上げたとしても、需要がなければ事業として成り立ちません。
新規事業の失敗を避けるための戦略
失敗を避け、新規事業を成功に導くためには「情報収集」「人材獲得」「資金繰り」「フレームワーク」の4点に着目した戦略が重要となります。
情報収集
顧客の課題やニーズを正確に理解することが新規事業の成功の鍵です。そのため「情報収集」は戦略において必須であるといえます。継続的に市場をリサーチし、顧客や競合相手の動向を探りましょう。
人材獲得
既存の情報を有効活用するとともに、必要なノウハウやスキルを持った「人材を積極的に獲得する」ことも戦略の一環となります。資金が足りず人材獲得の余裕がない場合には「外部人材に相談」するとよいでしょう。必要なシーンにのみ外部人材を利用することで、コストを抑えながら必要なノウハウやスキルを補完できます。
資金繰り
新規事業における資金繰りの戦略では「助成金や補助金の活用」が主体となります。融資が難しい状況でも、助成金や補助金なら資金提供を得ることが可能です。助成金や補助金は返済が不要なので、資金不足のリスクを大幅に低減してくれるでしょう。ただし、補助金や助成金を受給するには、応募条件を満たした上で、適切な申請をしなければなりません。助成金や補助金は審査に時間がかかります。計画を立てる際にはその点に留意することが重要です。
フレームワークを活用する
「フレームワークを活用」することで戦略立案が具体的になります。フレームワークとは課題解決に向けた思考方法や手法の事を指します。例えば、自社の優位性を分析する「VRIO分析」や、顧客へのアプローチ方法を分析する「RFM分析」は、さまざまな企業において用いられているフレームワークです。フレームワークを用いれば、考え方が整理しやすくなるため、検討漏れが減ります。さらに事業内部において考え方が共有しやすくなります。ただし、フレームワークはあくまでも1つの視点からみた分析方法に過ぎません。誤った戦略とならないように、複数のフレームワークを用いて多角的に事業を分析することが大切です。
新規事業の失敗からの学びと改善
新規事業で失敗はよくあることです。しかし、過去の失敗事例から失敗を分析して理由を学べば、次に新規事業を立ち上げる際の糧となります。失敗をただ過去のものとして終わらせず、徹底的に失敗を分析しましょう。
失敗の分析では最初に「どの段階で失敗していたのか」「何がうまくいかなかったのか」「どの要素が誤算だったのか」といった点の洗い出しが重要です。その上で、従業員や関係者からのフィードバックを取り入れ、次回への改善点を特定します。戦略はなるべくアジャイルなものを採用し、成果を見ながら柔軟に調整することで、市場やニーズの変化に適応しやすくなります。
なお、いかに素晴らしい戦略策定ができていたとしても事業が成功するとは限りません。想定していない状況が起きたときのために、「撤退ラインの設定」をしておくことは重要です。撤退ラインが設定されていないと、撤退のタイミングを逃して事業撤退以上のダメージを負う可能性が高くなります。撤退ラインをあらかじめ決定しておけば、適切なタイミングで事業からの撤退が可能となり、損失の増加が防げます。損失を最小限に抑えられたなら、時期をみて再度新規事業をスタートすることも可能です。
新規事業の失敗事例4選
世界的に有名な企業が起こした新規事業の失敗事例を以下に紹介します。
7pay(セブン&アイ・ホールディングス)
コンビニエンスストア大手のセブン・イレブン(セブン&アイ・ホールディングス)は、キャッシュレス決済を進めることを目的に、電子決済事業「7pay」を開始しました。しかし7payは開始後すぐにセキュリティの弱さが知られるようになり、不正アクセスが多数発生。その結果、事業開始後わずか1カ月で撤退せざるを得ない事態になりました。この問題はセキュリティの責任者が電子決済事業におけるセキュリティの知見を持たなかったことによって起きたと考えられています。
ちょい生(セブン&アイ・ホールディングス)
2018年、セブン・イレブンは店舗で生ビールの販売事業「ちょい生」を企画し、世間に発表。大きな話題となりましたが、一方で「未成年者の飲酒を後押しすることになる」「飲酒運転する人が続出する」「酔っ払いによって店舗の環境が悪化する」などの多くの懸念が寄せられました。その結果「ちょい生」は「想定を上回る反響」を受けたことを理由に実施直前に取りやめとなりました。リサーチが不十分なことによって新規事業への反応が予測できなかったことが招いた撤退劇といえるでしょう。
グーグルグラス(Google LLC)
検索サービスで知られるGoogle(Google LLC)は世界屈指のIT企業です。Googleは2015年に小型のウェアラブルデバイス「グーグルグラス(Google Glass)」を発表。社会革新につながるデバイスとして大きな話題となりましたが、市場にはほとんど浸透しませんでした。その理由の1つがプライバシーへの懸念です。公の場でこっそりと録画・録音ができるこの装置は、多くの人のプライバシーが侵害されるとみなされました。バー・カジノ・映画館などでは入店拒否騒動が起きています。また、デバイスを装着しながらの移動や運転について、安全性への懸念が寄せられました。プライバシーや安全性の問題のリサーチが不十分で、解決策が未熟なまま見切り発車してしまった事業であったといえるでしょう
SKIP(株式会社 ファーストリテイリング)
「ユニクロ」で知られる株式会社 ファーストリテイリングは、野菜の生産販売事業「SKIP」を2002年に開始。この事業は、ユニクロで培った流通ノウハウを用いることで、生産から流通までを合理的にコントロールして、効率的に利益を上げるというものです。しかし、農産業についての知識が足りなかったことにくわえ、市場ニーズの把握ができていなかったことが理由で、ユニクロが持つ流通ノウハウが活用できませんでした。その結果、わずか1年半で30億円の赤字を生み出し、撤退せざるを得ない事態となりました。
失敗事例から学ぶDX成功の秘訣