投稿日 2021.12.15

最終更新日 2021.12.15

小売業においてDXはどのような役割を果たすのか?業界内の課題と実際の事例も合わせて解説

コロナ禍を経て消費者行動が大きく変わった今、厳しい状況の中で戦い続けている小売業界。モノが売れないことが当然となり、売りにくさに苦悩している企業も少なくありません。

積極的なDXへの取り組みは、業界全体の課題を解決するために有効な手段の一つ。そこで今回は、小売業界の現状や課題に目を向けながら、小売業のDXについて考えていきたいと思います。

小売業のDXとは

小売業のDXとは

デジタル後進国と言われる日本では、“2025年の崖”を回避すべく各業界においてDXの推進が急がれています。小売業も例外ではなく、デジタル活用が進みDXへの取り組みが活発化。変革が求められる業界であり、DXによる業界の変化に期待が寄せられています。

では、小売業のDXについてまずは基本的なところから確認していきましょう。

小売業のDXは流通業界全体の活性化につながる

DXとは、デジタルの力を活用しながら業務プロセスやビジネスモデルなどに変革を起こす事を意味する言葉です。小売業では、デジタルサイネージ(電子看板)やロボット、IoTなどのデジタル技術を活用しながら、DXに取り組むケースが一般的。このようなデジタル技術を活用して、顧客体験の向上や業務効率化の実現、コストの削減などに取り組むことが、小売業においてDXを実施する目的となります。

小売業に従事する各企業がDXに取り組むことは、生産・供給に対するムダの軽減につながるということ。そのため、サプライチェーンが最適化され、小売業界のみならず流通業界全体の活性化にもつながっていくのです。

小売業のDXに欠かせない「OMO」の概念

小売業のDXについて解説する上で欠かせないのが、「OMO」と呼ばれる概念の存在。OMOとは「Online Merges with Offline」の単語の頭文字を取った言葉で、“オンラインとオフラインの融合”を実現させる販売方法のことを意味しています。

オンラインとオフラインとは、それぞれ“ECサイトのようなインターネットを介したサービス”と“実店舗”の関係のこと。今はオフライン(実店舗)で販売されている商品も、いずれはすべてオンライン上での提供に切り替わっていくことを見据え、今のうちからオンラインとオフラインの垣根をなくしておこうというのがOMOの考え方です。

小売業のDXとOMOとが直接つながっているわけではありませんが、OMOへの取り組みはDXを推進させる大きな力となることは間違いありません。小売業においてDXを推進するためには、OMOの考え方もきちんと頭に入れておきましょう。

小売業界の現状と課題

小売業界の現状と課題
消費者ニーズの多様化や労働力不足など、他の業界と同じような課題を抱える小売業界。その状況に乗じて、新型コロナウイルスによる人々の購買行動の変化もあり、小売業には大きな変革が求められています。

業界全体の現状と課題に目を向け、DXの方向性について考えていきましょう。

モノが売れない・売りにくいのが今の時代

その時代によって、人々の購買行動には違いが現れます。景気やトレンドなどに大きく左右される小売業の景気ですが、今は決していい時代であるとは言えないのが現実です。

モノが不足していた戦後。日本は高度成長期を迎え、市場も急激に大きく拡大していきました。その後しばらくしてバブル景気と呼ばれる時代が到来し、そのバブルが崩壊するまで約5年。元号も昭和から平成へと変わり、家庭単位でも必要なモノがきちんと行き渡っている状態になっていました。

モノが足りない時代が終わったことにより、各メーカーの競争も激化。他者製品との差別化を図るべく、同じカテゴリの商品でもさまざまなバリエーションが見られるようになります。

その結果、消費者はたくさんある製品の中から自分に合うものを選べる状況に。消費者に
とっては自分の好みのものを見つけられるという環境が生まれましたが、小売企業にとってはモノを作ってもなかなか売れないという時代に突入します。

さらに、インターネットやスマートフォンが普及したことによって、人々の消費意欲はモノからコトへと変化。「どのような体験ができるのか」に重きを置く風潮へと消費者の行動が変化したことによって、小売業にとってはモノが売れない・売りにくい時代が続いているのです。

モノの価値の変化

モノからコトへと人々の消費意欲が変化した今、「体験すること」に対しての価値が高まり、モノに対する価値自体に変化が起こっています。今までは一つのモノを購入し、それを自分のものとして使うという行動が一般的でした。

しかし“体験”に重きが置かれている今、サブスクリプションなど“定額で使い放題”というサービスが主流に。個人がモノを買って所有するという時代に合わせて経営を行っている小売業にとって、このモノの価値の変化は脅威となっているのです。

モノの価値が変化したことによって、今まで通りの経営戦略で進んでいこうとする小売業は時代に取り残される運命にあります。消費者意欲やモノの価値の変化に合わせた経営戦略の改革が、今小売業界に求められているのです。

実店舗がショールームと化している

新型コロナウイルスのパンデミックにより、インターネットを介した買い物の機会は今まで以上に増加。ECサイトの成長も著しく、国内でもその傾向は強く表れています。

こういった購買行動の変化によって起きたのが、実店舗のショールーム化。ネットショッピングに対する需要が高まったとはいえ、実店舗で直接商品を見たいという人々のニーズはまだ根強く残っています。

しかし、実店舗の使い方には変化が見られ、実店舗で商品を実際に見てネットで購入するという行動をとる人が増加。実店舗が実質“ショールーム”と化しており、リアルではなかなか商品が売れないという事態を招いています。

結果、同じような商品を安く提供している他社に顧客を奪われるという機会も増加。業界内で生き残るためには、実店舗とECサイトをうまく連携させるような新たな戦略が求められています。

小売業のDXへの取り組み

小売業のDXへの取り組み

小売業においてDXは、業界内で生き残るために欠かせない条件の一つ。どんどん変化する消費者の行動に対応するために、DXは有効な手段であると言えます。

では、具体的に小売業のDXはどのような変化をもたらすのでしょうか。その取り組みに目を向けてみましょう。

OMOのためのデータ分析

小売業のDXに欠かせないOMOの考え方ですが、そもそもOMOを実現するためにはオンラインの基盤を強化することから始めなければいけません。オンラインを強化すると聞いてECサイトの開設などを思い浮かべる人も少なくないでしょうが、ただECサイトを開設するだけではないのが、小売業のDXの大切なポイントです。

ECサイトを開設することももちろん大きな一つのステップですが、重要なのはその運用方法。ECサイトを開設したことによって得られるデータをしっかり分析し、ショッピングの動向調査や新規顧客・リピーターの獲得へつなげていけるかどうかが、DX成功への分かれ道となります。

デジタル技術を活用しながらマーケティングに必要なデータ分析を行い、その結果をもとに実店舗とオンラインとの融合を図っていくことが、小売業に必要なDXです。
 
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単純作業を自動化

小売業の業務には、いわゆる単純作業と呼ばれる業務が数多く残されています。例えば業務のデータをExcelに転記する作業や、FAXで届く注文書の内容をシステムへ入力する作業など、決まったパターンを繰り返すだけの業務に時間と人を取られているケースは少なくありません。

小売業のDXは、こういった単純作業を自動化するためにも着手すべき取り組み。既存業務をただ自動化するだけでなく、時間がなくて手が回せない作業を自動化していくことで、社内の業務効率が一気にアップします。

店舗運営の無人化

他の業界と同じく、小売業も人材不足の課題を抱えています。これからますます加速する少子高齢化の影響から、今後も多くの業界において労働力の不足は続いていくことでしょう。

今の課題を将来に引き継がないようにするためには、今のうちに店舗運営の無人化に向けて取り組んでおくことが大切。とは言え、店舗運営の無人化はいきなりやってそのまま成功するものではありません。重要なのは、きちんとステップを踏んで無人化を進めていくもの。

単純作業の部分をデジタルに置き換え、まずは省人化を進めながら最終的に無人で運営できるシステムを構築することが、今小売業に求められているDXです。

小売業でのデジタル技術活用

小売業でのデジタル技術活用

DXに取り組むためには、デジタル技術の活用が欠かせません。小売業においては、どのようなデジタル技術の活用がなされているのでしょうか。

AIの顔認証技術を活用してスタッフの安全と店のセキュリティを確保

まだ完全な終わりが見えないコロナ禍。今のところ、まだまだ店舗での対策が求められる状況にあります。

そこで活用されているのが、AIの顔認証機能とサーモグラフィカメラを組み合わせて開発された、AI温度検知サービス。来店者の体温測定はもちろん、店内の混雑状況を一瞬で判断し入場制限の判断につなげられることから、スタッフの感染対策にもつながると考えられています。

またAIの顔認証技術は、店内のセキュリティアップにも力を発揮。顔認証機能搭載のスマートカメラを設置することで、店側が要注意人物と判断した人物の特定が可能に。カメラの情報をモバイル経由でスタッフに知らせることで、迅速に万引きの対応を行うことができるようになります。

AIとIoTで補充作業をサポート

小売業では、店舗の商品補充作業が必要なケースも少なくありません。しかし、商品の補充作業は小売業の業務の中でも単純な作業の一つ。そこで、補充作業にかかる手間と時間をカットするために、AIやIoTなどのデジタル技術が活用されています。

AIとセンサー付きのカメラを連動させ、適切な補充のタイミングをチェック。来店客が商品を手にすると、センサーつきの付きのカメラがその動作を認識してカウントし、AIが補充に最適なタイミングを判断します。

補充のタイミングになるとアラートが発動するため、商品棚の見回りを行わずとも最適なタイミングで商品を補充できるようになります。

クラウド型サービスなどを活用して勤怠管理を効率化

勤怠管理に関わる業務においても、デジタル技術の活用が有効であるとされています。今は小売業の勤怠管理に特化したクラウド型サービスやシステム、ツールなどが開発されており、それらを有効活用することもDXにつながる一歩になります。

自社で勤怠管理専用のシステムを構築するケースもありますが、費用も開発までの時間も大きなものとなることは避けられません。手軽に利用できるものもあるため、企業の大きさや従業員の数などに合う最適なものを活用することが大切です。

小売業のDX成功事例2選

小売業のDX成功事例2選

DXのイメージを膨らませるためには、すでに成功を収めているDXの事例に目を通すことも有効な手段です。今回は、2つの例を挙げてご紹介します。

OMO時代に最適なアプリを開発/日本コカ・コーラ

清涼飲料水の販売を行う日本コカ・コーラでは、自動販売機の多さに着目して新たなマーケティング施策を実施。「Coke ON(コーク・オン)」と名づけられた自社オリジナルのアプリを開発し、自動販売機とユーザーとのつながりをより密接なものにしました。

Coke ONは、コカ・コーラの自動販売機で飲み物を買う際にアプリをかざすと、その都度スタンプがたまっていくというシステム。スタンプが合計15個たまると、ドリンクチケット1枚に交換されるという流れを作り、自販機チャネルの活性化へとつなげていきました。

自社アプリでオンラインとオフラインを融合/良品計画

「無印良品」で知られる良品計画は、日本の企業の中でも早い段階でOMOに取り組んだ企業の一つ。2013年にリリースしたオリジナルアプリ「MUJI passport(ムジ・パスポート)」を配布し、消費者の購買行動データの取得に成功しました。

MUJI passportは、来店時のチェックインや商品の購入、レビューの書き込みなどのアクションによって“MUJIマイル”と呼ばれるポイントがたまっていく仕組み。アプリを起点としてサービスを展開することで、ECサイトの利用率アップに成功しました。

まとめ

小売業において、DXは業界で生き残るために避けては通れない取り組みの一つです。オンラインとオフラインの垣根がどんどんなくなっていくこれからの世界を作るためにも、DXを推進して新しいビジネスの形を作っていくことが求められます。

会社の規模や業種などに関係なく、これからの時代はデータをいかに活用するのかということが大切です。弊社でも、小売業に特化したデータ活用・分析サービスを提供し、企業のデータ活用のお手伝いをさせていただいております。

この記事の監修者

阿部 雅文

阿部 雅文

コンサルタント

北海道大学法学部卒業。新卒でITベンチャー企業入社し、20代で新規事業の事業部長を経験。その後さらなる事業開発の経験を積むために、戦略コンサルティングファームにてスタートアップ企業からエンタープライズ企業のデジタルマーケティングや事業開発におけるコンサルティング業務に従事する。2021年5月にFabeeeにジョイン。DXコンサルタントとして大手メーカーや総合商社などを担当するほか、数多くのクライアントから指名を受け、各社の事業開発を支援中。多忙を極める中でも、丁寧で迅速な対応が顧客から高い評価を得ている。