メタバース採用とは
メタバースは比較的新しいサービス形態であり、まだあまり馴染みがないという人も多いでしょう。まずはメタバースの簡単な概要、および採用活動への活用について以下に解説していきます。
メタバースの基礎知識
メタバースは「meta(超越)」と「Universe(世界・宇宙)」を組み合わせた造語であり、日本語訳では「仮想空間」などと呼ばれることもあります。基本的にはコンピューターあるいはインターネット上に創られた3次元の仮想空間を指す概念です。初めてメタバースという名称が登場したのは、1992年に発表されたSF小説「スノウ・クラッシュ(ニール・スティーブンソン著)」でした。その後、メタバースを実現する技術が著しく発達し、現在ではゲームやビジネスなど一般向けサービスにも広く活用されるようになりました。
広がりを見せるメタバース採用
メタバースはビジネス界で様々な形で導入が進められていますが、中でもメタバース採用は注目度の高い取り組みとなっています。メタバース採用では企業側がインターネット上に会社説明会や面接のスペースを設けて、「アバター」と呼ばれる仮想マスコットを通じて応募者とコミュニケーションを図るというのが基本的なスタイルです。その他にもテキスト・画像・動画など多様なメディアを用いて応募者に自社の魅力をアピールすることが出来ます。自社スペースのデザインもカスタマイズの自由度が高めなので、イメージ戦略やブランディングにも効果が期待出来るでしょう。なお、メタバースは様々な事業者がサービスを展開しており、各社で機能・特徴・強みが異なります。メタバース採用を自社に導入する際は、必要な機能を備えた使いやすいプラットフォームを選択してください。
メタバースを活用した採用のメリットとデメリット
メタバース採用にはメリットとデメリットが共存しています。効果的に運用するためにはその双方をしっかり把握しておくことが大切です。次に紹介するポイントを参考にしてください。
メタバース採用のメリット
自社の「リアル」をアピール出来る
メタバース採用ではインターネット上に多種多様なコンテンツを展開可能なため、オンライン採用で希薄になりがちな「自社のリアルな姿」を投影出来るというメリットがあります。実際のオフィスに近いデザインでメタバース空間を作り込めば、応募者が企業の雰囲気や就職して働いている自分をイメージしやすくなるのです。就活時と入社後のギャップは新入社員の早期退職に繋がるリスクがあるため、応募者と自社とのマッチングを図るという意味でもメタバース採用は有効と言えるでしょう。
応募者の本音を引き出しやすい
応募者と採用担当官が素顔ではなく、アバターを通じてコミュニケーションを取るというのがメタバース採用の大きな特徴です。対面やオンライン面接の場合、相手の視線が気になって緊張するという応募者は少なくありません。アバターはその心理的ハードルを下げて、応募者の本心を引き出しやすくする効果が期待されています。見られているという緊張感が緩和される一方で、視覚上は相手のアバターと同じ仮想空間に自分が存在しているので、程よい距離感が演出されるという点もポイントです。
効率的に応募者を集められる
メタバース採用はオンライン上でプロセスが完結するため、応募者の居住地を問わず全国から人材を募ることが出来ます。さらに、メタバース空間を提供している事業者の中には合同企業説明会や講演会といったイベントを企画しているところも多いです。採用面接までに自社をアピールする機会を作りやすいというメリットは、人材獲得競争が激しくなっている現代ビジネスにおいて大きなアドバンテージになり得るでしょう。
他社との差別化
2022年12月時点では、採用活動にメタバースを導入している企業はそれほど多くありません。しかし企業の採用活動は多くの求職者が注目する取り組みであり、自社のスタンスを幅広く認知してもらえるチャンスでもあります。メタバース採用を導入すれば先端技術やビジネスのトレンドに敏感であり、先見性・将来性が見込める企業であるという印象を持ってもらいやすくなるでしょう。採用活動1つを取っても、競合他社との差別化は可能なのです。
メタバース採用で気を付けたいデメリット
応募者にも最低限のITリテラシーが必要
求職者がメタバース採用を利用するためには、アプリケーションのインストールや初期設定など最低限の作業を自分で行ってもらうケースも多いです。したがって、ある程度のITリテラシーを持った求職者しか応募してこないという可能性もゼロではありません。幅広い人材を求めている企業にとっては、この点がデメリットになり得ると言えるでしょう。メタバースサービスでは招待客にURLを送付してアクセスしてもらうだけの製品もあるので、ケースバイケースで活用を検討してください。
通信環境や機材トラブルの可能性
メタバースがオンライン上のサービスである以上、利用者の機材や使用環境によるトラブルの可能性は念頭に置く必要があるでしょう。自社では高速回線を確保しておく、応募者に対しては電波環境の良い場所で接続するように周知するといった工夫が求められます。トラブルに対応出来るIT人材を自社で確保しておくとベストです。また、スマートフォンの機種やOSのバージョンによっては、そもそもメタバースのサービスに対応していないという可能性もあります。必要であれば通常の採用試験とメタバースを併用するなどして柔軟に対応しましょう。
メタバース採用の実際の事例
既にメタバースを就活に導入している企業では活発な取り組みが行われています。自社への導入をイメージするために、いくつかの事例を見ておきましょう。
CAREER THEATER
NPO法人エンカレッジでは日本最大級の就活イベントとしてCAREER THEATERを運営しています。1万人以上の参加者実績があるこのイベントでは新型コロナウイルスの影響により、2022年からメタバース空間での合同説明会や講演会を導入しました。2020年・2021年のオフラインイベントで課題とされていた「臨場感の欠如」がメタバースによって改善され、参加者と企業の間で活発なコミュニケーションが実現した事例です。
株式会社ビヨンド
株式会社ビヨンドはクラウドやサーバー事業を手がけるIT系企業であり、2023年度新卒採用試験においてメタバースを導入しています。氏名・年齢・性別・学歴といった個人情報を秘匿した状態で応募者と担当官がコミュニケーションを交わすというスタイルが採用されました。応募者が気兼ねなく自分をアピール出来る環境が整ったため、採用担当官が応募者の内面や職業適性をチェックしやすくなったというケースです。
住友三井オートサービス株式会社
住友三井オートサービス株式会社では、メタバース空間を「執務フロア」と「ゲストフロア」の2つに分けて活用するという取り組みが行われています。執務フロアではテレワークにおける通常のオフィス業務が行われており、採用イベントなどで必要に応じてゲストフロアを解放するという仕組みです。メタバース面接の前後で各待機室で応募者の緊張をほぐすための雑談を挟むなど、メタバース空間を上手く活用した採用フローを構築しています。普段からメタバース空間を活用してノウハウが蓄積されているため、スムーズな対応が可能になったと言えるでしょう。
メタバース採用の課題点や将来性
比較的新しいシステムであるメタバースには、いくつかの課題点も指摘されています。その中でも重要な課題点とメタバース採用の将来性は次の通りです。
課題点は「デバイスの普及率」と「セキュリティ」
メタバース採用における大きな課題点は「デバイスの普及率」と「セキュリティ」だと言われています。メタバース空間の提供サービスには機能に応じてVRゴーグルやトラッキングツールが必要になる場合があり、これらのツールを用いる場合は企業側・応募者側の双方での準備が必要です。クオリティの高いメタバース空間を利用したい場合には必須となりますが、専用ツールを必要としないサービスも多くリリースされています。自社がメタバースに求める要素と相談しながら調整していくことが重要になると言えるでしょう。
メタバースにはアバターモデルの盗難やパスワード流出のリスクがあるという指摘もあります。仮想オブジェクトの被害事例は既に報告されているため、メタバース採用においても軽視出来る状況ではないと言って良いでしょう。また、アバターを通じたコミュニケーションになる点を悪用した応募者の成りすましが発生する可能性もあります。不正アクセス検知システムや多重認証の導入など、セキュリティレベルの向上も今後の大きな課題点です。
メタバース採用の将来性
2020年の新型コロナウイルス流行以来、日本でもオンライン面接・企業説明会といった採用活動における非接触の取り組みが盛んに行われるようになりました。メタバース採用はこれらの取り組みで発覚した課題点をクリアするシステムであり、今後の採用活動においてスタンダードな手法となり得る可能性を十分に秘めています。もちろん克服すべき課題はありますが、現代技術をもってすれば十分解決可能でしょう。
【まとめ】メタバース採用は将来性のある取り組み!上手に利用して活路を見出そう
ビジネスや働き方が多様化していく中で、企業の採用活動においても着実に変化が訪れ始めています。より一層効率的に自社にマッチした人材を採用するためには、メタバース採用の活用が有用になっていくと言えるでしょう。採用マーケティングにおけるメタバースの存在は、もはや他人事ではありません。競合他社と差別化を図るという意味でも、自社への導入を検討してみてください。