ChatGPT(チャットGPT)とは?
ChatGPT(チャットGPT)とは、米国企業である「OpenAI社(Open AI, Inc.)」が開発したAI(人工知能)を用いた、チャットボットによる対話サービスです。2022年11月の公開直後から人気は沸騰し、公開からわずか2か月で世界のユーザー数は1億人を突破しました。
ChatGPTは、まるで人と対話するかのように質問に答えてくれるだけでなく、従来のチャットボットでは難しかった、文章の要約や翻訳・プログラムや物語の作成・アイデア出しといったことが可能です。その用途は多岐に渡るため、個人的な楽しみ方以外にも、ビジネスへの利用を検討する企業も多く現れました。なお、ChatGPTの利用は基本無料です。月額20ドル支払えば、アップグレード版の「ChatGPT Plus」が利用できます。
ChatGPT(チャットGPT)を活用した制作物は著作権侵害になるのか?
ChatGPTで作成された制作物には、著作権が及ぶのでしょうか。ChatGPTと著作権の関係では次のようなパターンが考えられます。それぞれにおいて、著作権侵害が起こり得るか以下でみていきましょう。
ChatGPTの制作物は誰の著作になるか
ChatGPTは、インプット・アウトプット・制作物(コンテンツ、content)の権利関係について規約において、次のような公式の見解を示しています。
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- インプット(質問など、利用者が入力した情報):すべての権利を利用者が所有。
- アウトプット(入力によって製作された回答など):規約などの順守を条件にして、OpenAIはすべての権利を利用者に譲渡。
- 制作物(インプットおよびアウトプット):規約などを遵守する限り、ChatGPTで製作された出力内容について、利用者はあらゆる目的(販売や出版などを含む商業利用も含む)において利用可能。ただし、法律や規約に違反していないかの確認を含め、制作物について責任を負う。
(a) Your Content. You may provide input to the Services (“Input”), and receive output generated and returned by the Services based on the Input (“Output”). Input and Output are collectively “Content.” As between the parties and to the extent permitted by applicable law, you own all Input. Subject to your compliance with these Terms, OpenAI hereby assigns to you all its right, title and interest in and to Output. This means you can use Content for any purpose, including commercial purposes such as sale or publication, if you comply with these Terms. OpenAI may use Content to provide and maintain the Services, comply with applicable law, and enforce our policies. You are responsible for Content, including for ensuring that it does not violate any applicable law or these Terms.
公式の見解によれば、インプット・アウトプット・制作物は、原則として利用者の著作物となります。しかし、OpenAIではAPIサービス以外から入出力された情報については、サービスの開発や改善に利用する場合があることを規定しているので、個人情報・非公開情報・機密情報の入力は避けた方がよいでしょう。
ChatGPTの学習用データの著作権は制作物に及ぶか
ChatGPTに用いられているAIは、機械学習によって知識量を増やし、回答の精度を高めています。機械学習に用いられている学習用データは、インターネット上に公開されている大量のコンテンツから得られることがほとんどです。インターネット上のコンテンツは、それぞれが著作権を有しています。そのため、学習用データから作成されたChatGPTの回答が、他者の著作権を侵害してしまう場合があります。
日本では2018年(平成30年)の著作権法改正により、機械学習における著作物利用については、著作権が権利制限(著作権法30条の4第3号)されることで、原則として著作権侵害とはなりません。インターネット上の情報は、自由に学習用データとして使うことが原則可能です。元データとなった著作物の創作的な表現が残らないのであれば、ChatGPTを含め、AIで作られた新たな制作物について、元データの著作権が及ぶことはありません。
しかし、これはあくまでも日本の法律が及ぶ範囲の話です。例えば、アメリカの著作権法には、機械学習においての著作権の権利制限についての規定がありません。争訟となった場合には、著作権の権利制限に関する一般規定を、諸事情ごとに判断して、解釈することになります。それゆえに、ChatGPTの制作物が、既存のコンテンツが持つ著作権を侵害していると認められる可能性が残ります。ChatGPTを用いた制作物を利用する場合には、既存のコンテンツの著作権を侵害していないか確認する作業が必要であるといえるでしょう。
ChatGPTの制作物が既存コンテンツに類似した場合
ChatGPTは情緒や感情といったものにとらわれず、学習用データに基づいてアウトプットするため、既存のコンテンツと類似したものを作り出すおそれがあります。このような状況が発生した場合、既存コンテンツの著作権を侵害したとみなされる場合があるので注意しなければなりません。自分がChatGPTでアウトプットしたものとよく似た回答が、すでに誰かの手によってChatGPTで生み出されている可能性もあります。この場合にも、著作権侵害の可能性が発生します。
類似の回答による著作権侵害のリスクを避けるには「類似文章のチェック」と「プロンプトの指定」を意識することが大切です。
「類似文章のチェック」をする場合は、コピーチェックツールなどを使うとよいでしょう。インターネット上に類似した文章が存在していないか、確かめることが可能です。ChatGPTはまだ完成された記述とはいえず、既存のコンテンツからテキストをそのまま抜き出してしまうことがあります。そのため、類似文章が存在しないかのチェックが必要です。特に商用利用を検討している場合には注意してください。また、すべてをChatGPT任せにしないことも大切です。ChatGPTの回答を参考にしてユーザーが文章を作成すれば、コピーコンテンツとなることを避けられると同時に、文章にオリジナル性を持たせられます。
「プロンプトを指定」することによって、ChatGPTはより具体的で独自性が高い文章が作成可能です。「プロンプト」とはChatGPTに送る指示文のことを指します。プロンプトを指定すれば文章に条件が指定できるようになり、ChatGPTの応対が変化します。例えば、プロンプトを指定すれば、専門家の立場での回答を求めたり、指定する形で文章を要約したりといったことが可能です。これによって、よりオリジナリティの高い文章作成が可能になるので、著作権を侵害するリスクを低減させられるでしょう。
ChatGPT(チャットGPT)にて著作権問題になっている事例
2023年6月の段階で、ChatGPTは著作権問題についての複数の争いを抱えています。
ニュースメディアとのライセンス交渉に関するトラブル
2023年2月、ChatGPTの機械学習に複数のニュースメディアの記事が用いられたことが、著作権侵害に当たるものとして、CNNやダウ・ジョーンズ(ウォールストリートジャーナルの親会社)がChatGPTに抗議しました。抗議の内容は、ChatGPTがニュースメディアから学習用データを得ているにもかかわらず、OpenAIはそれらメディアから適切なライセンスを得ておらず、ニュースメディアの利用規約に反しているというものです。同年6月の時点では訴訟にまでは発展していません。ただし、OpenAIとニュースメディアとの間でのライセンス交渉が不調に終わった場合には、訴訟となる可能性があります。
スクレイピングによる訴訟
スクレイピング(ウェブ・スクレイピング)とは、インターネット上から情報を抽出し、利用しやすく加工することを指します。ChatGPTは機械学習のために多くのデータをインターネット上からスクレイピングしており、この行為が多くの著作権を侵害しているのではないかとの声が上がっています。2023年6月、カリフォルニア州において、OpenAIに許可なく大量の書籍がスクレイピングされたことを理由に、二人の米国人作家から訴訟が提起されました。この訴訟において原告側は、ChatGPTの大規模言語モデル自体が著作権侵害による派生作品である、との主張もしています。
「ゲーム・オブ・スローンズ」作者や関係者から著作物が無断で使用されたと提訴
米作家のジョージ・R・R・マーティン氏、ジョン・グリシャム氏らがChatgptの学習に無断で著作物が利用されてると提訴をしたと発表した。これと同時にクリエイターの利益をAIから守られるべきと主張している。インターネット上にある著作物を元に学習してる以上はクリエーターに何かしらの補償が必要である。オープンAIは多くのクリエイターと協議して双方に有益な方法を模索すると述べている。
ChatGPT(チャットGPT)は商用可能なのか?
2023年6月の時点における公式見解によれば、ChatGPTは原則として商用利用可能です。入力された情報と出力された情報の両方において、ユーザーが利用に関する権利を持ちます。ただし、入力および出力された情報について、OpenAIはすべての権利を放棄しているわけではありません。公式の見解や規約において、サービスの開発や向上のために制作物が用いられることがある、としている点については注意しましょう。なお、OpenAIの利用規約は比較的早いペースで更新が行われています。商用利用を検討する際には、その時々の規約を必ずチェックするようにしてください。
ChatGPT(チャットGPT)の今後の行方は?
ChatGPTの登場以降、投資分野はOpenAIをはじめとする人工知能分野への投資を活発に行うようになっています。ChatGPTの運営会社であるOpenAIの売上は、2024年に10億ドルを突破すると予想されているほどです。世界がChatGPTによって大きな影響を受けたことがわかります。この投資の流れは、今後も続くことが予想されています。
なお、ChatGPT自体がこれからさらに進歩することは明らかです。まず、ユーザーとの対話において、ますます洗練された能力を持つようになるでしょう。言語モデルのトレーニングデータの量や多様性の向上、学習アルゴリズムの改善により、より自然で理解力のある応答が可能になっていきます。これによって、ChatGPTはより多くの場面で利用されるようになるでしょう。実際にChatGPTに用いられていた言語モデルがGPT-3からGPTー4にアップグレードされた際には、ChatGPTのビジネス利用を検討する企業は増加したそうです。
例えば日本では、ChatGPTを用いて法令の問題点をピックアップしたり、国会などでの答弁書を作成するといったことも計画されています。ただし、ChatGPTほどに高度なコンテンツ作成ができる人工知能の登場は世界でも初めてのことです。そのため、多くの国や地域で法整備が間に合っていません。著作権をはじめとした権利上のトラブルは、これまでよりも多く発生するでしょう。問題を早期に解決するためにも、なるべく早い段階において、人工知能や著作権に関する法整備が必要となるでしょう。