投稿日 2021.11.26

最終更新日 2021.11.26

行政・自治体ではビッグデータをどう活用している?ビッグデータの活用事例10選

国を挙げて推進に取り組んでいる、ビッグデータの利活用。企業はもちろん、行政・自治体においてもビッグデータをはじめデータサイエンスの力が積極的に活用されています。

では、行政や自治体ではどのような場面においてビッグデータを活用しているのでしょうか。具体的な事例を確認していきましょう。
 
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コロナ禍でさらに浮彫になった日本のデジタル化の遅れ

日本はデジタル後進国と言われており、企業はもちろん行政や地方自治体でも新型コロナウイルスの蔓延によってデジタル面でもさまざまな課題が浮き彫りとなりました。デジタルにまつわる課題を克服すべく、日本政府は2021年9月にデジタル庁を新設。ビッグデータの活用をはじめ、行政と自治体が中心となって日本で暮らす人々の生活が便利になるような取り組みが今まで以上に推進されていきます。

行政や自治体では、主に行政サービスの向上や公共利益のためにビッグデータを活用。人々の暮らしをよりよくするために、ビッグデータを利活用しています。

また、ビッグデータの活用はユビキタスネットワークのスマート化や、ICTの利活用などにも必要不可欠。ビッグデータは、日本の経済成長力を高める上でも欠かせない存在であると考えられています。

行政・自治体のビッグデータ活用事例10選

民間企業でも当たり前となっている、ビッグデータの活用。行政・自治体においては、ビッグデータをどのように活用しているのでしょうか。

交通渋滞の緩和や交通安全のためにビッグデータを活用/神奈川県川崎市

神奈川県川崎市では、一般道路の渋滞予測に交通ビッグデータを活用しています。地図アプリなどを手掛けるナビタイムジャパンと連携し、交通ビッグデータの活用を推進。全国の自治体の中でも初めての取り組みとあって、注目を集めました。

ナビタイムジャパンの交通ビッグデータを分析し、区間ごとの速度や急ブレーキがかけられた頻度の高いエリアなどを抽出。急ブレーキがかけられたエリアには新たにカーブミラーを設置するなど、交通ビッグデータから見える事実をもとに交通事故を減らすための対策が施されています。

行政情報ダッシュボードを構築/兵庫県加古川市

兵庫県加古川市では、各自治体がオープンデータを公開するために使用している“オープンデータカタログサイト”にて公開中のデータを活用し、加古川市独自の「行政情報ダッシュボード」を構築しています。この行政情報ダッシュボードは加古川市のオープンデータだけでなく、e-StatやRESASなどの情報も地図上で確認できるのが特徴。AEDの設置場所や防災関連施設、バリアフリー施設なども地図上で確認でき、そこで生活する人々にとってビッグデータがより身近なものになる工夫が施されています。

ダッシュボード上では、防災に関する情報も表示。Jアラート・Lアラート・Vアラートの情報が確認できるだけでなく、地域の安心・安全メールも表示されるようになっており、人々の暮らしの安全にビッグデータがうまく役立てられています。

携帯やスマホのビッグデータから交流人口の動向調査を実施/新潟県

新潟県では、交流人口の動向を調査するために、携帯電話の県内運用データとスマホユーザーへのアンケート結果のデータを活用しています。携帯電話の県内運用データは、国内約7,000万台の携帯電話と訪日外国人約400万台の携帯電話が対象。このうち、新潟県内において調査対象期間内に利用されたデータを使い、県内を計7つのエリアに分けて動向を調査しました。

また、エリアだけでなく時間帯別にも動向を調査することで、来訪の目的の大半が“宿泊”であるという結果を導くことに成功。どの県・どの国からの来訪が多いのかや、どういった目的で来訪しているのかを知るためにビッグデータを活用し、観光事業の振興に役立てています。

地方創世支援システムから「声なき住民」の声を拾う/福岡県糟屋郡篠栗町

2000年代当初まで人口増加が続いていた福岡県糟屋郡篠栗町は、2005年以降に転入数が転出数を上回ったことから、この課題を解決するために地方創世支援システムを導入した本格的なビッグデータ活用を実施。地方創世支援システムの導入によって住民基本台帳や財務管理、福祉、医療保険などの一元管理が可能となったことから、人を呼び戻すための“子育て支援事業”の実施に着手しました。

また、「声なき住民」の“声”を拾えるようになったのも、地方創生支援システム導入の効果。なぜたくさんの人がこの地域を出て行ってしまったのかという、人口激減の背景を追えるようになったのは、地方創生支援システムの導入によってビッグデータを有効活用した結果だと言えます。

今後は役場の職員だけでなく、住民にも地方創生支援システムの公開を検討しているとのこと。ビッグデータが、行政・自治体と住民との橋渡し役になっています。

ビッグデータの調査と分析で日常業務を支援/日本政府

日本に限らずどこの国でも、日々さまざまなデータが蓄積されています。国民にまつわるデータや経済成長にまつわるデータ、交通やエネルギー資源にまつわるデータなど、政府は常時蓄積されていくこれらのデータを追跡し、国を運営していかなければいけません。

政府は、これらのデータを適切に調査・分析し、日々の業務に活用。分析結果から見えたことが日々の業務の支援に役立つのはもちろん、注意すべき領域の特定を行い政治プログラムの意志決定や国家的課題の解決など、行政のさまざまな場面においてビッグデータが活用されています。

過去のデータから災害の規模を予測/宮城県気仙沼市

災害対策にも活用されているビッグデータ。宮城県気仙沼市では、過去に起きた風水害時などの気象データや被害の記録をもとに統計処理を行い、災害が発生した場合の被害状況や行政が取るべき行動のモデルの予測などを行っています。

災害に対する予測を行うことで、災害発生が予想される数日前から災害対策の立案が可能に。大雨情報だけに頼ると判断が難しく、どういった対策を取るべきか迷いが生じることもありますが、データに基づいて意思決定を行っていくことで危機意識が共有できるようになったそう。

2020年にはこの取り組みに対して「第5回 地方公共団体における統計データ利活用表彰 総務大臣賞」も授与されており、ビッグデータを活用した災害対策にも今後も注目が集まりそうです。

スマートな自治体運営を目指し官民ビッグデータを活用/群馬県前橋市役所

日本各地で問題となっている、人口減少と高齢化。これらの課題に立ち向かうべく、今国を挙げて「スマートシティモデル事業」が促進されています。群馬県前橋市役所では、携帯電話の位置情報や水道使用量、住民基本台帳などのデータを活用し、「EBPM(エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング、証拠に基づく政策立案)」を社会実装するための課題解決に向けた対応策を検討。

市のクローズドデータなど、官民のビッグデータを活用しながら、空き家の推計を導き出すことに成功しました。ビッグデータを活用しながら調査・分析することで、さまざまな場面でのコストカットを実現。その上リアルタイムで地域の実態が把握できるようになり、行政として地域の課題を認識しながらスマートな自治体運営の実現が可能となりました。

65万人分のビッグデータを活用して健康課題の見える化を実現/静岡県

健康に対する意識が高まっている昨今。一方で、地域によって“健康格差”が生じているのも事実です。そんな健康格差をなくすべく、静岡県では65万人分の健診結果のビッグデータを活用した、健康課題の見える化を実現しました。

この取り組みのきっかけとなったのは、静岡県内でスタートした特定検診制度。特定検診は40歳から74歳までの人が受診できる健診で、結果のデータは大企業の健康保険組合や国民保険組合、協会けんぽなどに保管されています。

静岡県では、それぞれの組合の垣根を超えて健診結果のデータを収集。県内に本部を置いている全ての医療保険者へデータの要請を行い、データの収取を実現しました。収集した約65万人分のビッグデータは、分析の後“お達者度”別に市町村の地図に表示して見える化。

住民の健康意識を高めるためにも、行政として今後も取り組みを続けるそうです。

ビッグデータに基づいて健康推進対策を実施/愛媛県

愛媛県では、データ分析の重要性が叫ばれる中、自治体や被保険者自身がうまくデータを活用できていないという課題が残されていました。こうした課題を克服すべく、愛媛県は健康寿命の延伸や医療費の適正化を図るためにビッグデータの活用を積極的に実施。

そこで愛媛県は、「ビッグデータ活用協議会」や「ビッグデータ研修会」などの開催を通じて、ビッグデータを活用した健康推進対策への取り組みを実施。「愛媛県ビッグデータ活用県民健康づくり協議会」と題した協議会を設置し、データに基づいた生活習慣病対策を推進しています。

ビッグデータを活用した新たなまちづくり手法/国土交通省

スマートフォンの普及によって、個人の行動データが蓄積されるようになった昨今。スマホアプリなどに蓄積されるビッグデータは、まちづくりの新たな手法を生み出すほど大きな存在となっています。

国土交通省では、ビッグデータを活用した「スマート・プランニング」という新たなまちづくりの手法を発表。現在、自治体の財源が縮小傾向にある中で少子高齢化・人口減少などの課題を克服すべく、できるだけコンパクトなまちづくりが求められています。

そこで国土交通省は、個人の行動特性を分析し、施設の配置場所や道路空間の配分などを適切に行う必要があると判断。そこで必要不可欠な存在となったのが、他でもないビッグデータです。

ビッグデータを基に仮想の施設移転を行い、人の流れをシミュレーションする。こういった作業ができるのは、ビッグデータの存在があるからです。仮想の移転からシミュレーションを行うことで、複数の計画から最も現状の課題解決に適した案を選ぶことが可能に。

スマート・プランニングは、これからの日本の社会を作っていく上で、欠かせないまちづくり手法となること間違いありません。

千葉県千葉市の事例

千葉県千葉市では市民から寄せられるメッセージを市役所が共有し、市内で発生している困りごとを解決する仕組みとして活用しています。「道路が凹んでいる」「あの公園の電灯が切れている」などの地域の課題を、気付いた市民がICT(情報通信技術)を用いて「ちばレポ」へ報告し効率的に改善を目指します。

広島県呉市の事例

広島県呉市では市民の高年齢化への対策として、効果的に保健事業を行うためにデータヘルスを用いた仕組みを取り入れています。レセプトデータや健診のデータを分析し、その結果をもとに提供する医療の最適化を進めています。

北海道函館市の事例

北海道函館市では、水産資源や海洋環境の管理にICT(情報通信技術)を取り入れています。資源の分布や変動を見える化する「うみのレントゲン」、水温など環境を見える化する「うみのアメダス」を活用し、なまこ資源のV字回復や海洋観測ブイ設置のコスト減などを実現しました。

秋田県湯沢市の事例

秋田県湯沢市では、水田センサーで収集したデータを用いて品質向上や収穫量の増加を目指しています。湯沢市農業総合指導センターで解析されたデータを、有益な情報として生産者の方々へ発信する仕組みです。

長野県塩尻市の事例

長野県塩尻市では、鳥獣被害を解決するために獣検知センサーや罠捕獲センサーを活用しています。感知することでサイレン音やフラッシュが作動するだけでなく、検知した情報はクラウドシステムへ送信されます。その情報は農家の方へメールで提供され、効果的な罠の設置などに役立てられ成果をあげているようです。

 
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まとめ

行政・自治体にとっても、なくてはならない存在となっているビッグデータ。人々の暮らしと命を守るために、ビッグデータはこれからも活用されていくことでしょう。

この記事の監修者

冨塚 辰

冨塚 辰

プロジェクトマネージャー