デジタル技術を活用しながら企業の改革を行っていく、DX(デジタルトランスフォーメーション)。企業が抱える課題を解決しながら新たな価値の創造を行っていくことがDXの本質ですが、デジタル技術の導入に意識が向き「何のためにDXを行うのか」という大切な部分を見落としてしまうケースが少なくありません。
そこで今回は、この「何のために?」を見落とさないために知っておきたい「CX」にスポットを当てて解説していきます。DXへの取り組みの第一歩を踏み出すためにも、DXとCXの違いを理解しておきましょう。
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そもそも「CX」とは?
「DX」と「CX」の違いを理解する上で、まずCXとは何か?ということを明確にしておかなければいけません。DXの定義については以前にも解説をしているため、今回はまずCXという言葉の意味について触れていきましょう。
企業にとっての「CX」とは?
企業が成長を遂げ続けるためには、経営方針などその企業の基礎となる部分の改革だけでなく、顧客に向けた変革も行なっていかなければいけません。「CX」は、まさにこの顧客に向けた変革の部分を担う言葉なのです。
CXとは、Customer Experienceの略称。直訳すると「顧客体験」という意味になりますが、ビジネスの場においては「顧客体験価値」という意味で使われる機会も少なくありません。
顧客の体験や顧客の実感にスポットを当てたCXという言葉ですが、体験や実感の向上は商品やサービスの質を高めるだけで実現できるものではないのが難しいところ。体験や実感というものは、顧客が商品やサービスを選んで購入するまでの過程から、購入後のアフターサポートまで幅広い範囲を指します。
例えば、
「その企業の実店舗に行くと、親切かつ丁寧に接客してもらえた」
「カスタマーサポートにて迅速に対応してもらえた」
など、感情的な面での価値の向上もCX改善につながるポイントとなるのです。
商品やサービスなどのモノ・コトだけに焦点を当てるのではなく、顧客が企業に対してどう感じるのか、どういう関係性であるのかというところまで視野を広げて考えることが、企業にとってのCXであると考えます。
「DX」と「CX」の違いを整理
「DX」と「CX」。アルファベットの並びも聞こえもそっくりな二つの言葉ですが、それぞれ違う意味を持っています。DXを取り組む上でも知っておくべきDXとCXの違いについて、整理していきましょう。
どちらの言葉もビジネスにおいて使われるものではありますが、それぞれ土台となる対象が異なります。今、各業界の企業において取り組みが推進されている「DX」は、デジタルトランスフォーメーションという言葉の略称。DXは、デジタルの力を活用しながらビジネスに変革を起こし、新たな価値を生み出すための取り組みを行うことを指し、その取り組みの土台(対象)となるのはあくまでも企業です。
大きな考えで言えばCXも企業が成長するための取り組みであるため、DXと似たような取り組みであると混同されがちですが、CXの場合はあくまでも「顧客の体験」にスポットを当てていることが最大の特徴。デジタルの力を利用しながら業務プロセスの改善を行い、新たな価値の創出を行うDXに対し、CXは企業が安定して収益を得るためにいかにリピーターを増やすのかに着目した取り組みなのです。
「DX」と「CX」の関係性
目を向ける方向が違うDXとCX。しかし、それぞれ相互に関係しあう存在であることは事実です。
では、両者はどのような関係性にあるのでしょうか。
手段と目的の関係にある「DX」と「CX」
先ほどDXとCXの違いについて触れたことから、それぞれ似て非なるものというイメージを持った人もいるかもしれません。DXとCXという言葉が持つそれぞれの意味は、当然異なります。しかし、企業のビジネス活動という視野でこの二つの言葉を見れば、それぞれが相互に関係しあう存在であるということが見えてくるのではないでしょうか。
DXは、デジタル技術などを活用してビジネスに変革を起こすことを目的とした取り組みです。その最終的なゴールは、結果的に「顧客体験の向上につながったかどうか」。そう、実はCXはDXを行う上での目的であるのです。
CXという言葉の立場から見ると、DXは手段の一つ。CXという目的を達成するために、DXという手段を選択する。これこそが、DXとCXの関係性であると言えます。
一方で、CX向上の手段はDXだけではない
手段と目的の関係にあるDXとCXですが、CXを向上させたいというとき、必ずしもDXという手段を択ばなければいけないのかと言えば、そうではありません。DXに取り組む際はデジタル技術を活用するケースがほとんどですが、CXを向上させる手段の中にはデジタル技術を必要としないケースもあるでしょう。
例えば、カスタマーサポートの対応ひとつを取っても、雑に対応されたのか丁寧・親切に対応されたのかで、顧客の体験の結果は変わります。このケースにおいてCXを向上させるためには、カスタマーサポートの対応の質を上げることが最優先されるべきですが、この点において特にデジタル技術の活用は必要ありません。
DXは、CXを向上させるための手段ではありますが、あくまでもたくさんある手段の中の一つ。どんなケースにおいてもDXとCXがセットになっているわけではないということを、頭に入れておきましょう。
「DX」を実施したことによって「CX」の改善につながった事例
CXを向上させるための一つの手段であるDX。必ずしもCXの向上にDXが関係するというわけではありませんが、それでもやはりそれぞれは密接な関係にあると言えます。
実際に、DXを用いてCXの向上に成功した事例も報告されています。よりリアルにイメージするためにも、実際の事例を確認しておきましょう。
『Mobile Order&Pay』の導入でCXの質が向上/スターバックスコーヒージャパン
世界中に店舗を展開する、スターバックスコーヒー。日本でも人気の高いカフェショップとして知られており、店頭の行列を見ない日の方が少ないと言っても過言ではないほど知名度の高い企業です。
スターバックスでは、店頭でのオーダーの手間を軽減するために『Mobile Order&Pay』という自社オリジナルのアプリを導入。アプリから事前に希望の商品をオーダーすることで、レジに並ぶ時間や商品が出来上がるのを待つ時間の削減につながる画期的なサービスです。
『Mobile Order&Pay』導入のきっかけになったのは、顧客アンケートに書かれていた「レジを待っている時間が長い」、「並ばずに買いたい」という意見。ユーザーからの生の声をダイレクトに反映するためにアプリというデジタルの技術を活用したことで、結果的にユーザーからのネガティブな声をポジティブへと変換することに成功しました。
チャットボットでユーザーの買い物をサポート/UNIQLO
日本発のファストファッションブランドであるUNIQLOからも、DXを用いてCXを向上させた事例が報告されています。UNIQLOでは、AIの技術を活用してチャットボットの買い物アシスタント「UNIQLO IQ」を開発。自社のオリジナルアプリ内に一つの機能のとして導入し、CXの向上につなげています。
UNIQLO IQは、在庫の確認など質問に対する回答だけでなく、ユーザーへのおすすめコーデの提案や在庫確認からの購入などの役割も果たすことが可能。また、店舗などで採寸したデータをもとに、スーツやワイシャツなどをオーダーメイド感覚で選べるような機能も搭載されており、購買体験の向上へと直結しています。
まとめ
DXは、あくまでもCXを向上させるための一つの手段です。CXの向上のために必ずDXを実施しなければいけないかと言えばそうではないので、それぞれの関係性を知った上で少し切り離して考えるのがベストであると言えます。
大切なのは、企業の中でCXとDXの両方を機能させることができるかどうか。柔軟な発想をもとに、DXを賢く活用しながらCXの向上に努めていきましょう。