投稿日 2021.12.09

最終更新日 2021.12.09

「物流DX」とは?DXによって物流業界の課題を克服した成功事例も紹介

「物流DX」とは?DXによって物流業界の課題を克服した成功事例も紹介

Salesforceを活用して貨物の最新情報の連携を行った事例

Fabeee株式会社は、システムの構築だけでなく運用定着まで徹底的に伴走し、お客様のビジネス成長に貢献しています。実際の事例として、国際物流サービスのフライングフィッシュ株式会社との対談を通じて、Fabeeeの『バンソウDX』の思想や価値を解説します。フライングフィッシュ株式会社は国際物流サービスを提供し、2023年にSalesforceを導入しました。本稼働を開始してから約10ヶ月間、導入と定着支援の過程を振り返りました。
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デジタルの技術を活用しながら、業務のプロセスやビジネスモデルなどに変革を起こし、企業の競争力を高めることが目的であるDX(デジタルトランスフォーメーション)。日本国内ではまだまだ取り組めている企業の数が少ないですが、各業界DXに着手し始めている企業があるのも事実です。
 
今回は、物流業界のDXにスポットを当てて解説。業界自体にどのような課題があるのかや、DXを用いて課題の克服に成功した企業の事例などをご紹介します。
 
■DXとは何なのか?DXの全体像をより詳しく知りたいはこちら

「物流DX」とは?

「物流DX」とは?

デジタルトランスフォーメーションの略称である「DX」ですが、物流業界では「物流DX」という言葉も使われています。物流業界の課題などに目を向ける前に、まずは「物流DXとは何か?」というところに触れていきましょう。

物流分野のDX=物流DX
日本では、「2025年の崖」を回避すべく、各業界国の主導によってDXへの取り組み・実現が急ピッチで進められています。物流業界も例外ではなく、物流や運送業界が抱えている課題を克服するためにはDXの実現が欠かせないと考えられているのです。
 
物流分野で取り組まれるDXは「物流DX」と呼ばれており、国土交通省では「機械化・デジタル化を通じて物流のこれまでのあり方を変革すること」
(引用:国土交通省「最近の物流政策について」)と定義しています。ただ新たなデジタルのシステムを導入することだけが物流DXの目的ではなく、デジタルの力を活用して物流の優位性が高められるかどうかや、産業自体の国際競争力強化につながるかどうかが物流DXの焦点。
 
2021年6月に閣議決定された2021年度~2025年度版「総合物流施策大綱」では、物流DXが今後取り組むべき施策のトップに掲げられており、その重要度は非常に高いものであると言えます。

物流業界の現状と直面している課題

物流業界の現状と直面している課題

元々需要が高まっていた物流業界ですが、コロナ禍の影響を受けて元々あった課題がさらに深刻化するという状況が続いています。今、物流業界はどのような状況になっていて、どのような課題を抱えているのか。DXを推進する上で、知っておかなければいけない物流業界の“リアル”に目を通していきましょう。

小口配送の増加と多頻度化に伴う人材不足

今や自宅にいながら何でも購入できるようになったことで小口での配送が急激に増加し、運送業界に対する需要は一気に高まりました。業界自体は活気づきましたが、一方で深刻化したのがドライバーなど従業員の人材不足です。
 
EC市場の規模は拡大の一途を遂げており、少量の荷物を各家庭に配送するという作業もEC市場の拡大に比例して増えています。何度も同じ家庭に配送するということが当たり前になった今、件数の増加とともに配送は多頻度化。ドライバーの数も当然増やさなければいけない状況ですが、少子高齢化から労働人口自体が減少していることもあり、運送業界も他の業界と同じく人材不足に悩まされています。
 
ドライバーだけでなく、小口配送が増えるということは、荷物をピックアップするための人員も増やさなければいけないということ。配送手順が複雑化していることもあり、十分な教育を受けた人材の増員が急がれますが、育成のための時間が確保できず人材不足の課題を克服できないままでいるのが運送業界の現状です。

従業員にかかる大きな負担

小口配送の増加や多頻度化は、運送業界で働く従業員にかかる負担も大きくしています。ネットで注文した荷物が指定した日付や時間に届くのが当たり前という世の中になった今、人々が運送業界で働く人々に向ける期待も高まる一方。
 
配送スピードに対するハードルは高まり、ドライバーなど従業員にかかる責任は大きくなるばかりですが、賃金は低いままで長時間拘束されるという負のスパイラルから業界自体が抜け出せないでいます。また、企業としても従業員への教育にかける時間と人材を確保できないことから、十分な教育が行えないという課題も。
 
働く環境が劣悪であるということは、この業界に魅力を感じる人も増えていきません。結果、新しい人材が確保できず、今運送業界で働いている人たちにかかる負担は大きくなるばかりという悪循環に陥っているため、課題解決のための新たな戦略の打ち出しが急がれています。

ITシステムの老朽化

労働力不足を補うためにICTやデジタルなどの最先端技術を取り入れる業界が増えていますが、運送業界ではまだまだ最先端技術の取り入れが追いついていない状況です。新たな技術が取り入れられていないだけでなく、現在すでに稼働しているITシステムも現在の配送スピードについていけず、老朽化という新たな課題が浮き彫りになっています。
 
現在多くの運送業者で使われている古いITシステムを使い続けていると、DXのためにAIやICTなどの新たな技術を導入しても、データが取り出せずに連携できないという問題が生じかねません。そうなれば、DXの実現自体が難しくなってしまうのです。また、老朽化したITシステムを使い続けることで、セキュリティ面にも問題が生じてしまいます。

スムーズにデジタル技術の導入を行いDXに着手するためにも、早めに老朽化したITシステムを手放すことが求められているのです。

物流業界におけるDXへの取り組み

物流業界におけるDXへの取り組み

大きな変革期を迎えている物流業界では、課題を克服するためにDXへの期待値が高まっています。物流業界において、DXがどのような働きを見せるのか。具体的な取り組み例をいくつかご紹介します。

デジタル化で倉庫システムを効率化

今物流業界に求められるのは、スピーディーな配送。小口配送の増加や多頻度化に伴い、配送に関わる全ての業務にスピードが求められています。
 
しかし、ネックとなっているのが他でもない倉庫での作業。スピーディーな配送の実現には倉庫から荷物を搬出するまでの時間を短縮することや、商品を管理するための手間をカットすることなどが求められます。従来の倉庫のシステムでは、同じ届け先であっても商品によって別の倉庫からの出荷となるケースがあり、効率化が図れていないのが現状です。
 
そこで求められるのが、倉庫のシステムや商品自体のデジタル化。デジタルの力を利用して効率の良い倉庫システムを構築すれば、同じ納入先への荷物の一括管理も可能になります。スピーディーな配送を実現するためにも、物流業界において欠かせないDXへの取り組みの一つなのではないでしょうか。

AIを活用した勤務状況の最適化

働く環境を改善するためには、まず今従業員たちがどのような環境の中で仕事を行っているのか、現状を把握することから始めなければいけません。しかし慢性的な人材不足に陥っている物流業界では、なかなかこういったところに着手できていないのが実情です。
 
そこで期待されているのが、AIを活用した勤務状況の最適化。物流業界に従事する多くの企業では、従業員の勤怠管理はアナログで行われています。勤怠管理については個々の能力を見極めた上で適切な人員配置を行わなければいけないことから、担当者への負担が大きくなっていました。
 
AIを活用すれば、担当者の負担なく勤怠の管理が可能に。ドライバーのシフトなどもAIが自動作成してくれるため、時間を有効活用できるようになるのはもちろん、人件費の削減などにもつながっていきます。

配送方法や配送ルートの選択にAIを活用

交通状況や天気の状況によって、業務の進捗が大きく左右される運送業界。AIを活用することで精度の高い渋滞予測や天気の予測が可能となるため、最適なルートを最適なタイミングで選択することができるようになります。
 
その日の最適なルートの選択は、積載量や燃費にも大きく影響。機械学習によって予測の精などにもつながっていき、運送業界が抱える課題の克服に大きく貢献することが期待されています。
 
■AIをビジネスに活かす事例はこちら

物流業界のDX推進に欠かせないデジタル技術

他の業界と同じく、物流業界でもDX推進の勢いを強めるためには、デジタル技術の活用が欠かせません。物流業界では、どのようなデジタル技術が活用されているのでしょうか。代表的なものをいくつかピックアップして、ご紹介します。

在庫管理システム

商品の在庫管理や倉庫の管理、ピッキング、仕分けなどの作業をデジタル化するために、在庫管理システムが導入されています。作業効率が上がるのはもちろんデータの正確性も保たれるため、作業のスピードアップとミスの軽減に直結します。

ドローン

人手不足や利益率の低下などさまざまな課題を抱える物流業界ですが、そんな業界にとっての一筋の光となっているのがドローンです。国土交通省でも物流へのドローン活用に本腰を入れており、ドローンへの期待値が高いことがわかります。
 
ドローンは、少ない配送回数で非効率な過疎地域・山間部への配送に活用。トラックを走らせる回数も減るため、CO2削減の効果も期待されています。

運輸総合管理システム

ドライバーの運行状況や車両の状況を把握すべく、車両管理システムや運輸総合管理システムを導入するケースも少なくありません。デジタコ車載通信機器やドライブレコーダーと連動させることで、運輸・運送にまつわる業務を総合的に管理することができるようになります。
 
システムによっては、受注から実績の管理まで運送の業務に必要な業務を連携させられるものも。バラバラのシステムへの入力作業が一つのシステムで完結するため、管理の手間を大幅にカットできます。

物流業界のDX成功事例7選

物流業界のDX成功事例2選

DXの推進率がまだまだ低いとされている運送業界ですが、すでにDXを実践し成功を収めているケースもみられます。実際の成功事例に目を向けて、具体的なDXのイメージを膨らませていきましょう。

自動車専用船の運航スケジュール策定支援システム/日本郵船

海洋物流を担っている日本郵船は、自動車専用船の運航スケジュールを管理するための、支援システムを開発しました。自動車専用船は、巨大である上に、複数港で積荷と揚荷を行わなければなりません。そのため、安全に航行するスケジュールを策定するには、天候や港の混雑状況などを加味した上で、大量の計算をしなければなりません。その計算をシステムに任せることで、効率的なスケジュール策定を実現しています。また、人の手では不可能であった計算によって、より最適なスケジュール策定もできるようになりました。

IoTとAIによるドライバーの体調管理と事故防止/日立物流

日立物流は、ドライバーの情報をデータ化するIoTと、AIによってドライバーの体調管理を行う、SSCV-Safetyを導入しました。ドライバーの疲労やストレスといった情報を元に、独自のアルゴリズムを使って事故を予測します。そして、事故リスクが危険なレベルまで高まると、ドライバー本人や管理人に通知が行く仕組みです。それを導入した結果、事故に繋がりかねない、ヒヤリハットの件数を大幅に下げることに成功しました。また、取得したデータは、ドライバーの教育や評価体制にも活かされています。

自動で配車割り当てを行う横便箋システム/ヒサノ

熊本県を中心に、運送業と機器設置業を営むヒサノは、独自の配車システムを導入しています。横便箋システムという名前のシステムで、全ての従業員がどこで何の作業をするのかを把握することが可能です。また、従業員の免許の種類や、対応できる作業なども登録できます。そのデータを元に、受注内容に応じて、システムが自動で配車割当を行ってくれる仕組みとなっています。ヒサノは、荷物の運送だけではなく機器設置も行うため、従業員のスケジュールが複雑になりやすいです。けれど、横便箋システムによって、複雑なスケジュール策定もスムーズに行えるようになっています。

携帯端末と連動させて物流効率を高めるバース予約・受付システム/福岡運輸

福岡運輸は、倉庫内でトラックの荷上げと荷下ろしを行う場所であるバースの、予約と受付を行えるシステムを開発しました。ドライバーが携帯端末から予約をすると、接車できるタイミングで端末に連絡が行くというシステムです。システムの活用は、倉庫周辺の待機車両の状態把握や、倉庫内の貨物の見える化に繋がります。そうして、ドライバーの待機時間を削減し、倉庫周辺の渋滞緩和を実現しました。その功績が認められ、福岡運輸は九州運輸局から表彰されています。

RFIDタグと仕分けロボットによる倉庫内作業の効率化/佐川グローバルロジスティクス

佐川グローバルロジスティクスは、倉庫内の商品管理に、情報を簡単に読み取れるRFIDタグを取り入れました。RFIDタグが取り付けられた商品は、ゲートを通すだけで瞬時に検品が完了します。そのRFIDタグと、自動で仕分けを行うロボットt-Sortを組み合わせることで、高精度かつ短時間での仕分け作業を実現しています。難度の高い作業はロボットが行うため、倉庫内で働く従業員には、高度なスキルは求められなくなります。その結果、新しく雇用した従業員の教育期間短縮も実現しました。

ドローンを利用した新たな配送サービスを展開/日本航空

航空運送事業がメインとなる日本航空は、新たな収益源を生み出すべく、ドローンや無人ヘリなどを利用した新たな配送サービスの展開に着手しています。「エアモビリティ創造部」という新たな部署を2021年4月に新たに創立し、エアモビリティ事業への取り組みをスタートさせました。
 
この事業は、無人飛行機を用いた新たな貨物輸送事業を確立させることが目的。今ある航空輸送管理システムを活用しながらAIと航空を組み合わせることで、空飛ぶ車クルマドローン物流を実現しようとしています。
 
すでに、無人飛行機を用いた実証実験は成功を収めており、長崎・五島列島で獲れた魚をその日のうちに東京都内の料亭で味わえるという“長距離・ハイスピード物流”を実現しました。その他にも、離島への輸血の輸送などの実証実験も成功。今後は、輸血のみならず検体の輸送への活用も見込まれており、物流の可能性を大きく広げるDXになったことは間違いありません。

クラウドシステムを導入し20%の効率化に成功/UCCコーヒープロフェッショナル

業務用食品の卸売り、営業、配送などを行うUCCコーヒープロフェッショナルは、従業員が行っている業務を見える化するために、クラウドシステムを導入しました。動態管理が行えるクラウドシステムを導入したことにより、これまで責任者の肌感でしか把握できていなかった配送ルートの可視化に成功。
 
視点ごとの配送ルートの長短や配送エリアかぶり、エリアごとの特性などがデータを通じてはっきりと現れるようになったことから、課題の把握が行えるようになりました。また、データの分析を行えるようになったことから、配送ルートの見直しも実施。
 
その結果、20%の配送効率改善に成功し、業界内でも注目のDX事例として評価されています。

 
■様々な業界のDX成功事例はこちら

まとめ

さまざまな課題を抱える物流業界は、DXによって大きな変革を遂げられる可能性が高い業界であると言えます。人の出番が多い業界であるからこそ、デジタルの技術をうまく取り入れていくことが重要。

ユーザーにとっても従業員にとっても、有意義なDXを実現していきましょう。

この記事の監修者

阿部 雅文

阿部 雅文

コンサルタント

北海道大学法学部卒業。新卒でITベンチャー企業入社し、20代で新規事業の事業部長を経験。その後さらなる事業開発の経験を積むために、戦略コンサルティングファームにてスタートアップ企業からエンタープライズ企業のデジタルマーケティングや事業開発におけるコンサルティング業務に従事する。2021年5月にFabeeeにジョイン。DXコンサルタントとして大手メーカーや総合商社などを担当するほか、数多くのクライアントから指名を受け、各社の事業開発を支援中。多忙を極める中でも、丁寧で迅速な対応が顧客から高い評価を得ている。