DX(デジタルトランスフォーメーション)は、大きく分けて二つの種類に分けられています。二つの種類とは、「守りのDX」と「攻めのDX」のこと。企業がDXを進めていく上で、まずこの二つの違いを知っておくことが大切です。
そこで今回は、DXに対しての理解を深めるために「守りのDX」にスポットを当てて解説していきたいと思います。自社にとってのDXの形を見つけるためにも、参考にしてみてください。
■DXとは何なのか?DXの全体像をより詳しく知りたいはこちら
【守りのDX】デジタル化=DXではない
“DX”という言葉は聞き馴染みがあっても、「守りのDX」という言葉は知らなかったという人も少なくありません。企業のDXを進めていく上で、まず知っておきたい守りのDXについて確認していきましょう。
「守りのDX」とは
弊社では、以前にもDXについての記事をいくつかアップしています。そちらでもお伝えしたように、DXとは“Digital Transformation”の頭文字を取った言葉であり、直訳すると「デジタルの変革」という意味になります。そのため、“DX=デジタル化”であると認識している人も少なくないことでしょう。
DX推進の先頭に立つ経済産業省では、DXの概念を以下のように解釈しています。
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズをもとに、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」(経済産業省:デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン)
この概念を企業として解釈するためには、DX全体で捉えるよりも「守りのDX」と「攻めのDX」という二つのプロセスに分けて考えるべきです。
今回重点的に解説する「守りのDX」は、社内業務や体制に対する抜本的な改革に当たる部分となります。では、社内業務や体制に関する部分を“デジタル化”すればそれで守りのDXが完了するのかと言えば、そうではありません。守りのDXを実行するためには、“DX=デジタル化だけではない”ということをしっかりと理解しておくことが重要です。
大切なのは、守りのDXと称して行ったプロセスが業務プロセスの変革をもたらし、結果的に収益の向上や顧客体験の向上につながっているかどうか。デジタル技術を活用して業務プロセスの変革を行うことが守りのDXであるため、IT化やデジタイゼーションは含まれますが、ただIT化やデジタイゼーションを実行するだけが守りのDXではないということをきちんと頭に入れておきましょう。
DXを進める上でまず着手すべきは「守りのDX」
DXは、「守りのDX」と「攻めのDX」の二種類に分けられるとお伝えしましたが、まず着手すべきはどちらなのでしょうか。その答えは、「守りのDX」です。企業がDXを進める上で大切なのは、まずその必要性をしっかりと認識し明確な目的を確立しておくこと。そのため、DXは本来“とりあえず”では始められないものなのです。
DXに着手できないままの企業が日本に多いのは、まさにここが原因。なんとなくデジタル化を進めたのはいいものの、DXの必要性も認識できておらず、目的も確立しないままなので、結局頓挫してしまうというケースが少なくないのです。
ではなぜ、守りのDXから着手すべきなのか。その理由は、守りのDXが「自社でコントロールできる改革」であるからです。次のステップとして行う攻めのDXは、自社だけでなく顧客や投資家、地域社会までをも巻き込んで行う大きなプロセスとなります。守りのDXとは違って外部への働きかけが必要となるため、DXの必要性を理解し目的が明確になっていない状況では行動を起こすこと自体が難しいのです。
一方守りのDXは、社内でアクションを起こすことが目的となるため、DXに向けた“とりあえずの第一歩”踏み出すのに適していると言えます。もちろん、守りのDXは社内の業務プロセスへの変革を目的としたものなので、このステップだけではDXの実現はあり得ません。
しかし、DXに向けてなにも行動を起こしていない企業と守りのDXの一歩を踏み出した企業とでは、DXの進捗率に大きな差が生まれます。守りのDXと同時に攻めのDXにも着手するのが理想の流れですが、とにかくDXへの一歩を踏み出したいと考えている企業は、まず守りのDXのプロセスから着手するといいでしょう。
DXは業務プロセスの改善・変革から着手
守りのDXに着手する上で、まず今の業務プロセスの問題点をピックアップすることが求められます。では、どういう方法で業務プロセスの改善・変革を行っていけばいいのでしょうか。
「業務プロセスとは?」という基本的なところから、確認していきましょう。
業務プロセス・業務プロセスの改善・変革とは
「業務プロセス」とは、日常的に行なわれる業務やタスクの流れのことを意味する言葉。ITの業界などでよく使われており、日々この言葉が飛び交っているという人も少なくないでしょう。
DXを進める上でよく出てくるのが、「業務プロセスの改善」や「業務プロセスの変革」という言葉。業務間のつながりやその流れの効率化を指す言葉であり、守りのDXの本質を指す言葉であると言っても過言ではありません。
守りのDXに着手する上で、まず意識したいのがこの「業務プロセスの改善・変革」。ITやデジタルの技術をうまく活用しながら、いかに業務プロセスを改善・変革していくのかが、守りのDXを成功に導くカギとなります。
業務プロセスの変革は部門単位・業務単位で行う必要がある
DXを成功させるためには、一度で一気に推進するのではなく、スモールスタートが大切だと言われています。では、業務プロセスの改善や変革は、どういったステップを踏むべきなのでしょうか。
人の手を介して行われている業務は多岐に渡り、複雑化しています。この業務プロセスを変革するためには、まず小さな単位に分けて考え、部門や業務単位ごとに実施していかなければいけません。
製品やサービスに対してデジタル技術を活用する攻めのDXに対して、守りのDXはまず自社の業務プロセスに目を向けることからスタートします。小さな単位で同時にスタートし、さまざまな成功・失敗体験を経ることで、着実に守りのDXが進んでいきます。
また、小さな単位で守りのDXを進めることは、攻めのDXの実施に向けた“DX人材”の定着に直結。「守り→攻め」をスムーズに展開するためにも、業務プロセスの変革は部門単位・業務単位で行うのが理想です。
業務プロセスの改善はどのような手順で行うべきか
DXを推進する上で欠かせない業務プロセスの改善ですが、どのような方法で実行していけばいいのでしょうか。手順を追って、確認していきましょう。
現状の確認
まずは、現状の業務プロセスの確認と、改善の余地がないかどうかの洗い出しを行います。業務プロセスの改善を行うためには、まず課題と問題点を見つけなければいけません。
現状の確認を行う際は、以下の二つのポイントを意識することが大切。
- 1.業務内容と業務フローの確認
- 2.業務を行う上で生じている問題と課題の確認
また、実際に業務に関わっている作業者から話を聞くことも忘れてはいけません。
現状に対しての理解度を上げるために、「BPM(業務プロセス管理)ツール」を活用するのも一つの方法。BPMを取り入れることで業務プロセスを図式化できるため、問題化の可視化が可能となります。
それぞれの業務の手順や工程を細部まで確認し、再設計や組み換えが必要な場所を探ることから始めましょう。
優先順位をつける
業務プロセスの現状を確認して課題と問題が見えたら、それぞれの課題と問題に対する工数対効果を計算し、どの順番で着手するのかを決めていきます。優先順位をつけると、解決すべき課題・問題の優先度が決まります。優先順位の高い課題・問題の改善から着手することで、業務プロセス改善の成果がより高く現れることに。
工数対効果をもとに優先順位づけしたあとは、KPI(重要業績評価指標)を設定します。この手順を飛ばして目についたところから業務プロセスの改善に着手してしまうと、本当にその手法によって改善の効果が得られたのかがわからなくなってしまいかねません。
工数のムダを省くためにも、きちんとKPIを設定して進捗管理や実施後の評価へとつなげていきましょう。
改善案の作成
課題・問題改善の優先順位が決まったら、次は実際にどうアクションを起こしていくのかという改善案を作成します。改善案を作成する際は、「改善のために必要な期間」・「改善にかかる費用」・「得られる費用対効果」など、数字を用いながら行うことが大切。
「作業時間を〇〇時間削減」や「必要人員を〇%削減」など、改善すべき課題・問題に対する目標を数字にして表しておかなければいけません。
この数字が明確に出されていなければ、なんとなく改善の効果があったような気になって、現実はさほど大きな効果が得られていなかったという結果になってしまう可能性も。スモールスタートを意識しながらより具体的な改善案を作成し、実行へと移していきましょう。
改善案をもとに業務プロセスの改善を実施
改善案を作成したあとは、その手順に従って業務プロセスの改善を実施していきます。ただ、ここで一つ注意したいのが、一度に大きな成果を求めないということ。業務フローの改善は、一定の期間を要します。その間にさまざまなアクションを起こしていくこととなりますが、先ほどもお伝えしたように、業務フローの改善はまずは小さな範囲で実施していくのが成功のポイント。
そのため、改善の効果もじわじわと現れてきます。大きなアクションを起こして一気に効果を実感したいと考える人も少なくありませんが、一度で大きなアクションを起こすと、失敗したときに取り返しがきかなくなってしまう可能性も否めません。
改善案に従って業務プロセスの改善を実行する中で、時には想定していなかった問題が見えてくることもあるでしょう。そんなときは、改善策自体の修正を行う必要があります。業務プロセスの改善を行う最中に大きな壁にぶつかりそうになったときは、改善案自体に修正を加えて軌道修正することが業務フロー改善のポイント。いざというときでも柔軟に対応できるための余裕を残しておきましょう。
改善に対する評価と次の改善に向けた検討
改善に対するアクションを起こしたあとは、今回のアクションに対しての評価を行います。改善に対して実施した内容を振り返り、結果その内容によって改善の効果があったのかを検証・評価しましょう。
業務プロセスの改善は、長い時間をかけて効果が現れてくるものなので、一度目の振り返りでは新たな問題点が浮かび上がるケースがほとんど。新たに出てきた問題点に着目しながらまた次の改善に向けた検討を行うことで、業務プロセスの改善にともなうPDCAのサイクルを回していきます。
業務プロセス改善成功事例2選
それでは、実際に業務プロセスの改善に着手し、見事成功した企業の事例を見ていきましょう。
ボリュームの大きい業務を特定し改善の的を絞る/レディ薬局
ドラッグストアのチェーン店であるレディ薬局では、コストを削減しながらの業務効率化を目指していました。そこで、レディ薬局は日々の業務の中でも特にボリュームの大きい業務を特定すべく、現状の把握を実行。結果、荷受け・品出し・補充までの流れと、レジ作業に対するボリュームが大きいことが判明したのです。
そこで、まずそれぞれの業務にかかる時間を測定し、測定の結果をもとにそれぞれの業務に要する標準時間を算出。その時間にもとづいて“その業務を実施するために必要な人数×時間”という式を作り、この式から導き出された作業計画に沿って業務プロセス改善を実施しました。
1年間継続して取り組みを行った結果、人件費の8~14%削減を実現。今期が必要な作業ではありますが、結果的に大きな改善効果につながっています。
業務の無駄を徹底排除して業務員の作業スピード向上を実現/ロイヤルホテル
顧客の宿泊や婚礼など、顧客に合わせた接客が求められるホテル業界。顧客一人ひとりに合う“オーダーメイド”の接客が求められる一方、スピード感も重視しなければいけないのがホテル業界の掟でもあります。
そこでロイヤルホテルは、「5S運動」を実施して業務の無駄を徹底排除。「5S運動」とは、“整理・整頓・清掃・清潔・しつけ”という五つの言葉から構成された言葉です。「5S運動」を実施する場所やモノの決定をまず初めに行い、写真やビデオなどを使って記録することで、現状を把握していきました。
この「5S運動」は、順次実施エリアを拡大。結果、従業員の作業スピード17%アップや日ごろから効率化が意識づけられるようになるなどの効果が現れ、業務プロセスの改善に成功しました。
まとめ
企業のDXを進めるためには、まず社内の業務プロセスを改善することから始めなければいけません。守りのDXを実施するためにも、まず社内の業務において無駄な部分がないかを把握することからはじめてみてはいかがでしょうか。
次回は、「攻めのDX」に対する解説を行いたいと思います。守りのDXと合わせて知っておくべき内容なので、ぜひ確認してみてください。