メタバースECとは?
メタバースECとは、メタバース上でEC(電子商取引)が行えるサービスのことです。近年、インターネット通信の高速化やXR技術をはじめとする仮想空間創出技術が発展したことによって注目を集めています。
そもそもメタバースとは、一般的にインターネット上の仮想空間とその仮想空間で展開されているサービスのことを指します。メタバースの主な目的は、他者との交流です。メタバース上では、自分の姿を模したアバターが移動する、自由な世界が広がっていて、安全で開かれた交流を行えるようになっています。またインターネットさえあればどこからでも参加できるため、世界中の人とつながることが出来ます。
そんなメタバース上で商品を購入することが出来るサービスのことを、メタバースECと呼びます。
メタバースECの特徴
メタバースECは今までのECサイトとどこが違うのでしょうか。これまでのECサイトでは、動画や画像、文章や口コミなどによって商品が紹介され、ユーザーはそこから得られる情報から商品を選択、購入していました。しかし、メタバースECの場合は、メタバースの世界の中にある店舗を移動し、商品の3Dモデルなどを確認しながら商品を購入するため、実際の買い物に似た体験をすることが出来ます。例として、ユーザーの身体的特徴を模したアバターによる試着などが行えるため、ユーザーがこれまでのECサイトでは出来なかった商品比較が行えるようになること、企業側が店舗で行う商品配置や動線を応用したマーケティング戦略をとれることなどが挙げられます。身体的接触を伴わずに実店舗での購入が疑似体験できるということで、コロナ以降の新しい販売形態として注目されています。
ビジネス介入あり?メタバースECで可能性と市場規模
結論から言って、メタバースECには確実にビジネスが介入してくると予想できます。そこには、大きく分けて二つの理由があります。
①莫大な費用が掛かる
本格的なメタバースECを一から作成しようとすると、莫大な費用が掛かるでしょう。メタバースECの作成には、ベースとなるメタバース世界の開発、メタバース世界で動作する3DCGモデルの開発、商品を購入・販売するための機能の実装、大人数のアクセスに耐えうる安定したサーバーの構築、メタバース世界の運営業務など、多岐にわたるプロセスが必要となるため、それに伴って費用も膨れ上がっていきます。少なく見積もっても1000万円は必要で、高品質かつ多くのユーザーの利用を想定すると、数億、数十億以上かかる可能性も十分にあります。このことを考えると、費用をどこか一つの企業、もしくは団体が負担することは難しくなる可能性があるため、そうなった場合はスポンサーや投資家から資金調達を行う必要があります。そうなると、スポンサーから自社製品を置いて欲しいという要求があったり、投資家からリターンを求められたりすることも考えられるため、メタバースECにより多くのビジネスが関わってくることは充分に予想されます。
②市場規模が大きい
メタバースの世界には、世界中どこからでも参加することが出来ます。極端に言えば、世界中が市場になるということです。これは企業が、進出したい国にオフィスを構えたり、従業員を雇ったりすることなくグローバル化を進めることが出来るようになったということが言えるでしょう。またユーザーは、これまで現地を訪れなくては体験できなかったことを、デバイス上でどこからでも疑似体験することが出来るようになりました。
Bloombergの調査によると、2020年のメタバース市場の規模は4787億ドル、約56兆円となっています。これは日本における建設業の市場規模とほぼ同じ数値です。世界中を対象にしている割には規模が大きくないと感じるかもしれませんが、メタバース市場はこれからうなぎ上りに成長していくこともまた予想されており、その規模はさらに拡大していくでしょう。その中で、メタバースEC専門の販売業者、配送業者が登場するなど、新しいビジネスが生まれることも大いに考えられます。
以上の理由から、メタバースECには多くのビジネスが介入し、市場規模の大幅な拡大が起こることが考えられます。
メタバースを活用したEC事例を4選ご紹介
実際にメタバースを活用したECの事例を4つ紹介します。
①三越伊勢丹「REV WORLDS(レヴ ワールズ)」
三越伊勢丹が開発した、スマホ用のバーチャル都市コミュニケーションアプリ。メタバース上の「バーチャル伊勢丹」で商品の購入やバーチャルでの接客を体験できるサービスです。本物さながらのデパ地下や伊勢丹に実際あるショップでの買い物を楽しむことが出来るため、遠方に住んでいたり、あまり外出したくなかったりする人のニーズに応えるアプリと言えます。百貨店やデパート業界が需要減少で不振に陥っていると言われる中で、独自のノウハウや高い接客スキルを活かした、起死回生の一手となる可能性を秘めています。
②BEAMS「バーチャルマーケット5」
原宿にある実際の店舗をもとに作成されたバーチャルショップ内で洋服の販売、アバターによる接客を行うサービスです。アニメやアイドルとのコラボレーションTシャツを販売するとともに関連するイベントも行い、商品を購入するだけでなく、バーチャル世界ならではの体験もできるサービスとなっています。
③ギグワークスアドバリュー株式会社「体験型オンライン店舗サービス」
メタバース上でアバター同士が会話をしながら地方の特産品などの購入を楽しむサービスです。スタッフが操作するアバターとの会話によって購買意欲が高まり、来場者の約30%が商品購入を行ったというデータも得られています。特産品を購入できるという点で、離れた場所の商品を現地に訪れることなく購買できるというメタバースの持つ長所を活かしたサービスと言えます。
④バーチャルマーケット
「VRChat」というサービス内に作られたメタバース上で開催される、日本最大規模のメタバースECです。2020年度はdocomoやAdobe、テレビ朝日をはじめとする70社以上の企業、約1100の一般出展者が参加し、現実の商品やバーチャル上のアイテムの販売、購入が行われました。eスポーツの大会などのイベントなども多数行われ、メタバース上のお祭りのような活気にあふれたメタバースECとなっています。
メタバースECの現状の課題と将来性
メタバースECは大きな可能性を秘めている一方、課題も存在します。
一番大きな課題は仮想空間での所有権に関する法律がないことです。仮想空間上のアイテムや通貨が失われてしまったり、不正なアクセスによって奪われたりしてしまっても、取り戻すことは現状難しくなっています。対策として身分証明やセキュリティの改善などが挙げられますが、それにも限界があるため、やはり法整備が必要です。また、よりメタバースへの没入感を高めるために必要なVR機器の普及も課題です。普及を促進するためには価格の低下や操作性の向上などが必要ですが、まだまだ技術的に足りないところがあるのも事実です。
こうした課題がある一方で、大きな将来性もあります。インターネット上に仮想の世界を作り、多くの人がそこに参加するようになれば、企業にとっては現実世界と仮想世界の2か所でビジネスを行うチャンスがあるということです。ユーザーのメタバース上に対するニーズをしっかりと把握したうえでアプローチしていくことが出来れば、既存のビジネスモデルの枠を超えた利益を獲得できるかもしれません。
【まとめ】メタバースECの可能性
ここまで、メタバースECについて解説してきました。活用し、使いこなしていくにはある程度の知識が求められますが、その先にはまだ見たことのない可能性が広がっています。従来の販売の形から新たな販売の形へと移り変わることで、売れる商品の傾向も変わるかもしれません。市場の動向を逐一把握し、今までよりもより一層消費者目線の販売戦略を行っていくことが求められるでしょう。