自由化や脱原発など、近ごろ話題に上がることが多い電力業界。そんな電力業界にも、他の業界と同じくDXの波が押し寄せています。
今回は、電力業界の現状と課題に目を向けながら、DXの取り組みについて考えていきたいと思います。すでに成功を収めた事例なども登場するので、ぜひDXへの取り組みに向けて参考にしてみてください。
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電力業界にとってのDXとは
2020年6月に成立した「改正電気事業法」により、新たなビジネスの構想が可能となった電力業界。次々起こるビジネスの変革への対応や、目の前にある課題を解決していくためにも、今電力業界ではDXへの取り組みが盛んになっています。
そこでまずは、電力業界にとってのDXの必要性について考えていきましょう。
電力業界に大変革をもたらす「5つのD」の存在
ここ数年で、大きな変革を遂げている電力業界。大変革期とも呼ばれる今を乗り越えるためには、DXへの取り組みが欠かせません。
電力業界の変化について考える上で、知っておかなければいけないのが「5つのD」の存在。
- Deregulation(規制緩和)
- De-Centralization(分散電源、太陽光、風力)
- De-Carbonization(脱炭素化)
- De-Population(人口減少)
- Digitalization(デジタル化)
5つのDとは上記五つのDから始まる言葉の総称で、「5D」と表記されるケースもあります。5つのDの中で、事業者がコントロールできるのは「Digitalization(デジタル化)」のみ。この5つのDがもたらす変化の波を乗り越えるためには、事業者自身がデジタル化をしっかりと進め、競争力を高めていくことが重要です。
はデジタル技術の力を利用しながらビジネスに変革をもたらすことが目的となるDXは、5つのDに向き合わなければいけない電力業界にとって、早急に取り組むべき事案であることは言うまでもありません。各業界急がれているDXへの取り組みですが、5つのDという外的環境の変化に適応していくためにも電力業界のDXへの取り組みは特に急務であると言えるのです。
電力業界の現状と解決すべき課題
「5つのD」によって、めまぐるしい変革が起こっている電力業界。では早速、電力業界の現状と課題に目を向けていきましょう。
人口減少からの人手不足
超高齢化社会を迎えようとしている、現代の日本。超高齢化社会の到来による人口減少は、各業界の人手不足につながり大きな課題となっています。電力業界も例外ではなく、他の業界と同じように人手不足の課題に悩まされているのです。
今電力業界では、リニア新幹線の走行や送電線の増強のための大型送電線建設計画が動き出し、鉄塔需要が急伸。しかし一方で特殊技能が求められることから、製造や加工を担える人材の不足が問題となっています。
若年層の人口が減少するということは、後継者不足に直結して人材確保の難しさにつながるということ。業務の自動化やAIなどのテクノロジーを活用した、人手不足解消への取り組みが急がれています。
電力全面自由化による競争激化と安定供給のリスク
大手電力会社の地域独占を排除すべく、2016年からスタートした「電力の小売全面自由化」。それまでは電力をどの会社から買うかの選択権は消費者にありませんでしたが、電力の小売全面自由化のスタートにより、消費者自身が“どの会社から電力を買うのか”が選べるようになりました。
これによって、電力会社同士の競争が激化。新規参入の企業も増え、電力業界に大きな変革が起こりました。この変革によって求められるようになったのが、電力業界における新しいサービスの創出。電気というエネルギーが供給できるのは当たり前で、それ以上のサービスがないと戦えない世の中になったのです。
電力全面自由化によって、新しいサービスの創出といかに安定的に電力が供給できるのかが厳しい競争を生き残るためのポイントに。電気の地産地消や再エネ発電を中心としたサービスなど、安定的かつ新しいサービスを生み出さなければならないのも電力業界の使命となっています。
「脱炭素」から電力の調整力が求められるように
地球温暖化による気候変動は、地球規模での大きな課題として挙げられています。地球温暖化を食い止めるべく、昨今取り組みが進められているのが「脱炭素」と呼ばれる動きです。
脱炭素とは、二酸化炭素(CO2)を排出しない「再生可能エネルギー」へとシフトしていく動きのこと。再生可能エネルギーとは、風力発電や太陽光発電によるエネルギーのことを指します。
脱炭素を目指す上で必要不可欠である再生可能エネルギーですが、先に上げた風力発電も太陽光発電も、天候によって発電量が変動。CO2を排出しないとは言え、その供給は非常に不安定です。
ここで求められるのが、「調整力」。調整力とは、発電できる量に対して需要と供給のバランスを取るための力のことで、世界的にもこの調整力の必要性が高まっています。
電力業界では、この調整力をいかに確保できるかが課題に。脱炭素社会の先頭に立つ電力業界は、クリーンかつ安定的に電力を供給するためにも、調整力の強化が求められています。
電力業界におけるDXへの取り組み
地球の環境をも左右する電力業界では、積極的なDXへの取り組みが注目を集めています。電力業界において、どのような場面でDXへの取り組みがなされているのか、確認してきましょう。
災害時でも最適な判断を下すための環境整備
電力業界は、人々の暮らしにとってなくてはならない存在。そのため、災害時にどう対応するかが大きな課題となります。
電力業界おいては、災害時の復旧にスポットを当てたDXの取り組みも実施。設備の被害状況や復旧工程に関する情報、発電車の稼働状況など、災害時に必要な情報を可視化し、作業員の安全も守りながら迅速な復旧を目指せるシステムの構築がなされています。
これまで災害時に把握しづらかった被害状況や復旧工程の状況などを地図上に表し、意思決定までの時間の短縮につなげるケースも。災害時における人々の暮らしへの影響を最小限に抑えるために、DXの力が多いに活用されています。
保守・運用の効率をアップ
人口減少による人材不足の課題を克服するためには、デジタルの力を活用した効率化や自動化が必要不可欠です。現状のままで業務を進めると、設備のメンテナンスなどを行う人材も不足してしまうため、結果的に人々の生活に支障を与えてしまいかねません。
こういった課題を解決すべく、電力業界ではデジタル技術を活用した点検・メンテナンスの強化に着手。災害時などですぐに現地に人間を向かわせることができない場合でも、ドローンなどを用いて迅速に現状を把握する仕組みを確立しています。
ドローンなら、人が立ち入れない場所へもすぐに向かわせることができるため、トラブルの早期解決に直結。送電までの時間の短縮にもつながり、ユーザーにとってもメリットの大きいDXであると言えます。
ITツールを活用した業務の効率化
他業界と同じく、電力業界でもITツールなどを用いた業務効率化に着手しています。脱紙・脱ハンコなどDXの基本となる部分から、業務の高度化によるライフワークバランスの向上など、幅広い分野においてDXを推進。
顧客情報の転記作業や会計伝票の登録作業など、いわゆる単純作業と言われる定型業務を自動化することで、生産性は飛躍的にアップします。生産性の向上は、これから迎える人材不足の時代を乗り越えるためにも欠かせないプロセスです。
■業務効率化、守りのDXに関して知りたい方はこちら
電力業界でのデジタル技術活用
DXを進めていく上で欠かせないのが、さまざまなデジタル技術。電力業界では、どのようなデジタル技術が活用されているのでしょうか。
RPAで定型業務を自動化
都市圏にある大企業などで導入されるイメージのあるRPAですが、電力業界でも導入するケースが増えています。RPAは、DXの推進に欠かせないデジタル技術の一つ。“頭脳労働”と呼ばれるデスクワークを効率化するためのシステムであり、定型業務が多い企業ほど業務効率化の効果が大きくなると言われています。
電力業界にも、顧客情報の転記や契約・登録などと言った定型作業が多数存在していることから、RPAを導入してDXを推進するケースは少なくありません。RPAを導入して定型業務を自動化することで、大幅な業務効率化につながることも珍しくないため、将来の人材不足に備えるためにも導入を検討すべきデジタル技術であると言えます。
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ドローンで危険地帯への保守・点検も可能に
電力業界では、デスクワークだけでなく現場での作業が必要なケースが多々存在しています。しかし、災害時など現地がどのような状況になっているかわからないような場合には、人が立ち入っての点検が難しい場合も。
このような場面には近年ドローンが活用されており、これまで危険が伴っていた作業も比較的安全に行なえるような改革が実施されています。ドローンは、災害時の電柱被害状況の確認や火力発電所の煙突内部の点検、水力発電所の鉄管内部の点検などの場面において活躍。
人にかかる負担が減るのはもちろん、設備健全性評価まで一貫して行えることから、電力業界の安全を守るためにも欠かせない存在となっています。
AIを活用して設備の異常を早期発見
DXを推進する上で、活用される機会の多いAI。電力業界においても、AIの能力が活用されています。
電力業界では、人々の暮らしを守る場面でもAIを活用。長年蓄積してきたビッグデータをAIが分析し、火力発電所の設備に生じる異常の早期発見に役立てています。
発電所の運用は、人々の暮らしに直結する業務の一つ。再生可能エネルギーに注目が集まる中、AIの存在はなくてはならないものとなっています。
電力業界のDX事例2選
積極的にDXへと取り組んでいる電力業界。自社でのDXのイメージを膨らませるためにも、成功事例に目を向けてみましょう。
DXで「稼ぐ力」を創造/東京電力
国内最大規模の電力会社として知られる東京電力。福島の原発に対する責任と、業界内の競争激化に耐えうる企業になるために、グループ全体でDXに取り組んでいます。
東京電力グループのDXは、「稼ぐ力の創造」が一番の目的。5つのDの荒波が押し寄せる電力業界において、福島への責任・企業価値の向上という二つの目標を達成するためには、稼ぐ力の創造が欠かせないという結論に至り、DXへの取り組みに着手しました。
グループ全体のDXを推進するために、「DXプロジェクト推進室」を発足。この集団を中心にデジタル化と業務プロセスの改善に着手し、DXに対する取り組みを加速させています。
着手すべき項目が多岐に渡る電力業界においては、DXの推進力を高めるための専門部署を設けるのは有効な戦略。電力設備のスマート化や新たなクラウドサービスの提供など、着々とDXへの取り組みを進めています。
安定とコストカットの実現のためにDXを推進/関西電力送配電
電力の全面自由化を機に、関西電力から一般送配電事業を継承して分社化した関西電力送配電株式会社では、低コストで安定的に電力を供給するためにDXを推進しました。送配電ネットワークの利用料金を下げるためには、企業内における生産性の向上と効率化が欠かせません。
このプランを実現するためにはDXへの取り組みがマストであることから、RPAを導入してペーパーレス化、業務自動化を推進。アナログ業務をデジタルに置き換えるために、良いと思われるツールをどんどん導入しデジタル化を勢いよく進めてきました。
コロナ禍に入り、社員間のコミュニケーションに対する意識が変わったことも、DXへの取り組みが進む機動力に。今後は今以上にペーパーレス化への取り組みを強化し、安全かつ低コストな送電料金の実現に向けて動いているようです。
まとめ
業界を取り巻く環境がめまぐるしく変化している、電力業界。業界内で生き残るためには、DXへの取り組みが欠かせません。
さまざまな角度から業界全体の現状と課題に目を向けることで、取り組むべきDXの第一歩も見えてくるはずです。成功事例などを参考に、ぜひ自社のDXも進めていってください。