消費者行動が多様化する中、企業にとってWeb広告はユーザーへアプローチするための大きな手段の一つとなっています。しかし今、そのWeb広告に対して悪い影響を与える存在が表れ、その影響範囲の広さからWeb広告業界全体の大きな脅威となっているのです。
そこで今回は、Web広告業界を揺るがしている「ITP」という存在について深掘り。その歴史や対策法について解説します。
ITPとは?
ITPは、「Intelligent Tracking Prevention」の略語であり、Apple独自のブラウザである「Safari」に実装された、個人のプライバシー保護を目的とした機能です。Cookieを制限することで個人情報に対するトラッキングを防止する役割を果たしますが、それと同時にWeb広告にも多大なる影響を与えます。
ITPはSafariブラウザにのみその効果が限定されるため、それ以外のブラウザについては影響を受けません。しかし、Safariブラウザはモバイルやタブレットを中心に展開されていることから、シェア率も当然高め。
従って、モバイルやタブレットをターゲットとしてWeb広告を展開している企業にとっては、ITPの存在は脅威となっているのです。
ITPの歴史
OSと同じように、ITPは度重なるアップデートを繰り返してきました。ITPについて知るためにも、その歴史に目を向けてみましょう。
ITPの最初のバージョンがSafariに初めて導入されたのは、2017年のこと。第三者が発行するCookieである3rd party Cookieに制限をかけることから、ITPの歴史がスタートしたのです。
その後度重なるアップデートが繰り返され、3rd party Cookie無効化までの時間が24時間から即時へ、1st party Cookieへの制限も制限なしから24時間へ、local strageに保管されているデータに対しても制限なしから7日間へと、アップデートのたびに制限は強化されていきました。
2017年の導入以来、すでに5回ものアップデートを繰り返しているITP。今後もアップデートの実施はあると予想されていることから、Web広告事業者はどう対応するのか頭を抱えているところも少なくありません。
ITPはWeb広告運用にどのような影響を与えるのか
日本は、世界の中でもSafariユーザーが多い国。そのため、Web広告事業者にとってITPの存在は脅威となっています。
では、具体的にITPがWeb広告運用に対してどのような影響を与えるのか。特にダメージの大きい影響について、確認していきましょう。
コンバージョンの計測ができなくなる
広告の効果を測定する上で、大きな材料となるのが“コンバージョン”と呼ばれる数値です。コンバージョンとは、Web広告を経由して商品やサービスの購入・申し込みに至る消費者行動のこと。この数値が大きければWeb広告の効果があったと判断できるわけですが、ITPはコンバージョンの計測に必要なCookieを削除してしまうため、「実際は注文に至っているけれどコンバージョンとして計測されない」という事態を招きます。
結果、コンバージョンの数値がこれまでよりも低くなり、実際の消費者行動が読めなくなるため、Web広告の効果も正しく計測できなくなるのです。Web広告は、その効果を正しく判断しながら運用することが大切。ITPの影響を受けると、広告主にとって好ましくない状況を招いてしまいかねないのです。
リターゲティング広告が制限される
Cookieを利用するリターゲティング広告は、ITPの影響を大きく受けるWeb広告です。リターゲティング広告はサイトを訪問したことのあるユーザーのCookieをもとに、別サイトで再度広告を表示させる仕組みのこと。しかしITPによってユーザーのCookieは24時間までしか追跡できなくなるため、リターゲティング広告の配信量が著しく低下してしまうのです。
リターゲティング広告の配信が24時間で終了するということは、広告の効果も十分得られなくなるということ。高い対費用効果が期待できるWeb広告であるため、Web広告事業者にとっても大きな悩みとなっています。
ターゲティング広告の精度が低下する
Cookieから得たユーザーの情報をもとに、最適な広告を表示させるターゲティング広告。この広告に対しても、ITPは影響を与えます。
ターゲティング広告は狙ったユーザーへと、ピンポイントで広告が表示できる仕組み。しかし、その仕組みはユーザーのCookieを取得することで成り立っているため、ITPによってCookieの取得に制限がかかるとターゲティング広告の精度も下がってしまいます。
同じユーザーに対し、同じ広告を何度も表示してしまうというケースが起こる可能性も否めません。
スマホユーザー・スマホブラウザの比率
ITPの影響を受けるのは、Apple社のSafariのみ。そのため、androidのスマホユーザーに対しては、これまでと同じようにWeb広告の配信が可能です。
ITPの対策を練る上でも、まず知っておきたいのがスマホユーザーの比率。日本では、どのような割合になっているのでしょうか。
2021年にMMD研究所が行った調査の結果によると、日本のスマホユーザーの比率は「iPhone45.7%:android47.0%」という結果に。その他のスマートフォンを使っている割合も0.2%ほどあることから、iPhoneとandroidのシェア率はほぼ互角であることがわかります。
一方、スマホのブラウザシェアについては、Safariが全体の61.26%を占めるという結果に。スマホのブラウザに関してはSafariが圧倒的なシェア率を誇っていることから、ITPはWeb広告に対して大きな影響を与えると考えられているのです。
ITPの影響を防ぐためにできること
Safariユーザーが多いことから、Web広告の効果を維持するためにはきちんと対策しておくことが大切です。では、ITPの影響を防ぐためにできる対策について、確認していきましょう。
測定タグを更新する
Yahoo!広告やGoogle広告に対しては、ITPがアップデートを実施するごとに測定タグを更新することが大切。測定タグが更新されていない状態では、正確に機能しないケースがあるため、常に最新の状態を保っておかなければなりません。
最新のITPバージョンに対応するためにも、ITPのアップデート情報は常にチェックするようにしましょう。
Cookieに頼らない手法を取り入れてみる
ITPだけでなく、今後はSafari以外のブラウザに対しても3rd party Cookieの規制が強化されることから、cookieに依存した従来のマーケティングに対する見直しが急がれています。Web広告がITPの影響を受けるということは、すなわちCookieに依存した広告手法になっているということ。
こういったCookieに対する規制強化の流れから、今はCookieに頼らない広告の手法も生み出されています。ITPの影響を回避するのはもちろん、Web広告の効果を維持するためにも、Googleの「 Privacy Sandbox」など代替手法に関する情報を仕入れておきましょう。
ITP対策機能のついた広告効果測定ツールを使う
マーケティングを効率的に行ないその効果を高めるために、広告効果測定ツールを活用しているという企業も多いことでしょう。広告効果測定ツールの活用はWeb広告を打ち出す上で、非常に有効な手段であると言えます。
しかし一方で、広告効果測定ツール自体がITPに対する対策を行っていない場合は、広告効果が正確に測定できず、正しい広告配信も行なえません。広告効果測定ツールを活用している場合には、ITP対策に対応しているものを選ぶことで、正確な広告配信と広告効果の測定が行えるようになります。
Safari以外でも高まる3rd party Cookie対応停止の動き
ITPはApple社のSafariに搭載されている機能であることから、ITP対策を行ってWeb広告の効果を高めようと考える企業も多いことでしょう。しかし昨今、Web広告にとって重要な働きをする3rd party Cookieに対する対応停止の動きが活発になっており、Safari以外のブラウザでもITPと同じような規制をかけられることが当たり前になってきています。
パソコンやandroidスマホなどでのシェア率が高いGoogle chromeでも、ユーザーのプライバシー保護の観点から3rd party Cookie対応停止の動きを強化。2020年に「2年以内に」と発表されていた3rd party Cookie の廃止は、2023年からの段階的な廃止と1年以上延期になりましたが、今後Web広告にさまざまな影響が出ることは避けられないのが現状です。
まとめ
ユーザーを守る目的で開発されたITPですが、Web広告事業者にとってはマーケティング手法の変更が迫られるなど、厄介な存在となっています。広告の効果を正しく発揮するためには、ITP対策を実施することが大切。