少子高齢化によって、今後さらに需要が高まる医療の分野。その上、新型コロナウイルスなどの感染症に立ち向かうためにも、医療分野のさらなる発展が期待されています。
治療や処置などに対してデジタル技術の活用も進んでいる医療分野ですが、まだまだインターネットの力を活かしきれていないのが実情です。そこで今回は、医療の現状と課題に目を向けながら、医療分野のDXについて考えていきたいと思います。
医療DXの成功事例についてもご紹介するので、参考にしてみてください。
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医療分野のDXとは?
各業界でその必要性が叫ばれているDXですが、医療業界も例外ではありません。医療分野において、DXとはどのような役割を果たす存在なのでしょうか。
DXは医療分野の希望となる存在
少子高齢化が急速に進む日本では、他の業界と同じく人材不足の波が今後も押し寄せ続けると予想されています。新型コロナウイルスの蔓延による医療従事者の不足は記憶に新しいものですが、今後はこのような脅威にさらされずとも慢性的に人材の不足が起こると考えるのが自然でしょう。
こういった人材不足の課題を克服するためには、デジタルの力を活用しながら業務効率化と生産性の向上を目指すDXは希望の光となる存在。医療の分野においても、DXに対して大きな期待が持たれています。
しかし、他業界と同じく医療の業界においても日本のDX推進率は低水準。DXの取り組みの一つである電子カルテについても、日本の普及率は50%を切る水準となっています(2019年現在)。
日本の医療を将来につなげていくためには、医療分野全体でDXへ取り組んでいくことが重要。DXは、医療従事者にとっても患者にとってもメリットの大きい取り組みです。今ある課題を克服しつつ医療分野の新たな可能性を見つけるためにも、医療に関わる企業・団体のDXが急がれています。
医療分野の現状と課題
DXは日本の医療を将来につなげていくためにも、早急に取り組むべきプロセス。では、DXで解決すべき課題とはどのようなものなのでしょうか。日本医療の現状と合わせて、確認していきましょう。
2025年問題
医療分野で大きな課題として挙げられているのが、「2025年問題」です。1947年~1949年の間に生まれたいわゆる“団塊の世代”と呼ばれる人たちが、全員75歳以上の後期高齢者になり、超高齢化社会に突入することによって深刻な影響が懸念されています。これらにまつわる影響の全体のことを“2025年問題”と呼び、今医療業界のみならず日本のあらゆる場面においてこの2025年問題が取りざたされているのです。
医療にとっての2025年問題は、医療に従事する人間が足りなくなると同時に、超高齢化社会による医療ニーズの急増や介護にまつわる問題など、あらゆる方面への影響が心配されています。2025年は、日本の医療業界にとって大きなターニングポイントになるとも言われており、残されたわずかな時間で2025年問題に向けての対策を練っていかなければならないのです。
地域による医療格差
2025年問題とつながりのある課題として挙げられるのが、地域による医療格差。少子高齢化によって人口が減り続ける中、都市部と過疎部での人口の差は広がる一方です。
人の量の差は医療の質の差にも直結。大都市など常々人がたくさん集まるエリアは医療従事者も設備も充実しますが、人口が少ないエリアは医療従事者の確保すら難しく、医療の質の低下を食い止めることが難しくなってしまいます。今後、過疎部での医師不足はより深刻なものになると予想されており、こちらの課題の解決に向けても早急に取り組んでいかなければなりません。
アナログに頼った結果の対応遅れ
超高齢化社会の到来によって、このままでは医療業界に深刻な人材不足の波が押し寄せます。この課題を克服するためには人手を補うための仕組みを作っておかなければなりませんが、現状医療分野ではまだまだアナログに頼っているのが現状。
例えば、未だに紙の問診票が使われていたり、診療所から送られてくるFAXをもとにデータ入力を行ったりと、効率化を図るべき場面が数多く残されています。すでに訪れ始めている人材不足の波を乗り切るためにも、アナログからの脱却を急がなければなりません。
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医療分野におけるDXへの取り組み
山積みの課題と向き合わなければいけない医療業界ですが、DXに取り組むことによってどのように課題を克服していくことができるのでしょうか。“実現できること”に目を向けて、イメージを膨らませてみましょう。
オンラインで遠隔診療を実用化
医療分野におけるDXとして一番多く挙げられるのが、オンライン診療や遠隔診療という言葉。オンライン診療の実現には“ICT”の存在が欠かせませんが、この技術が発達したことにより病院側も患者側もたくさんの恩恵を受けられるようになりました。
オンラインで診療が行えるということは、医師の移動時間も患者の移動時間も丸ごとカットできるということ。移動の手間がなくなれば、一人暮らしの高齢者や病院から遠い場所に住んでいる人も、すぐに受診できるようになります。
過疎部に住む人が、都市部にある専門医を受診することも可能。オンライン診療のDXが進めば、医療分野の課題の一つである“地域による医療格差”をなくすことにもつながっていくのです。
紙からオンラインデータへの変更で人的ミスを軽減
未だ紙のカルテや問診票を使う病院が多いのですが、紙を使うことで起こるミスがあることにも目を向けなければいけません。日本では、「正式な書類=紙」という考えが根強く残っており、その考え方が日本のデジタル化を阻んでいます。
しかし、医療の現場で使用されている紙をオンラインデータへと変更することは、メリットもたくさんあることを知っておくべきです。物理的なメリットとしては、紙という存在自体がなくなることで、保管場所の確保が必要なくなります。また、患者からのデータを共有することでスタッフ間の連携もスムーズに行えるようになり、人的な負担の軽減にも直結。文字の書き間違いを起こす頻度も劇的に低くなるため、読み間違いなどの人的ミス軽減にもつながります。
受診前に問診票を回収することができるようになるため、患者へのヒアリング時間の短縮につながるなど、業務効率化も期待できるのです。
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医療情報のネットワークを構築
病院やクリニックのDXが進んでいけば、医療分野全体のネットワークを構築することも可能です。患者の基本情報や診察・検査結果など、個人の医療結果をデータにして病院や薬局、介護施設などと共有するためのネットワークが構築されれば、たくさんの人の目によって一人の患者を見守り続けることができるようになります。
一つの医療機関だけでなく複数の医療機関で患者の経過を見ていくことは、医療過誤の防止にも直結。不要な検査、投薬を防ぐことにもつながり、医療費の無駄遣いをなくすことも可能となります。
これからは一人暮らしの高齢者もより一層増えることから、地域全体での見守りが必要不可欠。超高齢化社会を迎える日本こそ、医療ネットワークの構築を進めておかなければならないのです。
医療分野でのデジタル技術活用
DXの推進率がまだまだ低い日本の医療業界ですが、DXにつながるデジタル技術を活用しているケースもあります。どのような場面でどのようなデジタル技術が活用されているのか、確認していきましょう。
アプリやウェアラブル端末を活用した予防医療
高齢化が進む日本では、予防医療にも注目が集まっています。この予防医療にもすでにデジタル技術が活用されており、私たちの生活の一部となりつつあるのです。
予防医療において活用されているのは、スマホアプリやセンサ搭載のウェアラブル端末などのデジタル技術。利用者の生活リズムやセンサから取得した患者の脈拍・血圧などの医療データを活用し、病気の予防に役立てるというのがデジタル×予防医療が成し遂げた成果です。
睡眠改善を目的とするものや将来の健康の予測を目的とするものなど、サービスの内容はさまざま。今後これらの活用が広まれば、人々の健康に対する意識がより高まり、健康寿命の延伸や医療費の抑制につながっていくことでしょう。
AIを活用して画像診断を半自動化
AIの画像識別機能は、病気の診断にも活用されています。病気の診断を行う際、レントゲンやCT、MRIなどさまざまな画像を用いることは珍しくありません。日本の医療においてもさまざまな機器が導入されており、画像の精度もより鮮明なものへと進化を遂げています。
しかし一方で、画像をもとに診断できる医師の数が足りていないという現状があります。この現状を打破するために活用され始めたのが、他でもないAIなのです。
AIによる画像診断の精度は日を追うごとに高まっており、脳動脈瘤の診断に関しては人間の診断能力を超えるとも言われています。AIの成長によって、画像診断はすでに半自動化。人材不足を補う大きな力となっています。
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RPAで医療事務を効率化
レセプトの作成など、医療事務に関わる業務はスタッフにとっての大きな負担となっています。しかし一方で、作業自体は単純なものがメイン。そこで導入されたのが、RPAです。
RPAを導入することで、定型の事務作業の自動化が可能に。マンパワーに頼った業務プロセスでは、膨大な量の入力や管理を行う際にどうしても人的なミスが発生しかねません。
一方RPAを導入すれば、業務が自動化されるだけでなくミスの軽減にも直結。現場スタッフの負担を減らすことができるため、患者へのサポートに費やす時間が増え、待ち時間の短縮にもつながっていきます。
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医療分野のDX成功事例2選
それでは、実際に医療分野におけるDXの成功事例に目を向けていきましょう。
オンライン妊婦健診/慶応義塾大学病院 産科
新型コロナウイルスの流行を機に、人々の病院受診に対する行動の変化がみられるようになりました。特に細心の注意を払わなければならない産科では、健診のスタイル自体を見直した病院も出てきています。
慶應義塾大学病院 産科では、感染予防対策の観点から妊婦健診をオンラインへと移行。慶應義塾大学病院 産科はハイリスク因子を持つ妊婦が比較的多いという特徴があり、いち早くコロナ対策へと乗り出しました。
この病院では、もともとハイリスク因子のある妊婦を多く受け入れていることから、「MeDaCa」というパーソナルヘルスレコード(PHR)アプリケーションを使い、妊婦のスマホへ超音波検査の画像や結果を送るというサービスを提供。こういった基盤があったことから、スムーズにオンライン健診への移行が可能でした。
その後、このサービスを活用した糖尿病患者向けの遠隔診療も開始。オンライン診療の新しい形を生み出したケースとして、各方面から注目を集めています。
AIとIoTでICUを遠隔管理/昭和大学
日本の医療業界で大きな問題となっているのが、ICUの不足。この問題を解決すべく立ち上がった昭和大学は、AIとIoTの力を活用しながらアジア初となる「デジタルICU」の実現に成功しました。
デジタルICUは、病院外にある支援センターと昭和大学のICUをネットワークで接続し、支援センター内にいる医師がICU内のモニタリングとサポートを行うというもの。「遠隔集中治療患者管理プログラム(eICU)」と呼ばれるフィリップス・ジャパンのシステムを導入し、デジタルICUの運用を行っています。
新型コロナウイルスの流行によって、ICU内にいる患者の管理が非常に大変なものとなっている様子が浮き彫りになりました。今までは疲弊しきったスタッフが対応していたICU患者も、遠隔でのモニタリング・サポートが可能となれば適切な人員配備が可能となり、業務の効率化も期待できます。
新型コロナウイルスの流行を機に、昭和大学のデジタルICUの仕組みが広まっていくことは間違いないでしょう。
まとめ
医療業界は、これからさらなる人材不足の波が押し寄せます。日本全体の大きな問題に立ち向かうためにも、医療業界におけるDXの実施を急がなければなりません。
日本人の未来を支えるためにも、DXの力で新しい医療の形を見出していきましょう。