メタバースを活用した地方創生とは?
地方創生に活用されるようになった「メタバース」とは、「仮想空間」のことです。WEB上に3次元の世界を展開し、利用者は自分の分身である「アバター」を使用して参加します。メタバースの中でもリアルタイムで時間が流れ、アバターを通して人々と交流し、遊び、仕事をするなど、現実世界と同じように社会生活を送ることが可能です。仮想空間の中でも、好みのアバターの作成・購入により利用者がアバターと自分を同一化して感情移入しやすくなるため、現実世界と同様に人々の感情を動かし、行動を促すことが可能です。
地方創生の課題とは
地方創生の課題として、人口が都市部に集中することによる、地方の人口減少・少子高齢化・地域産業の空洞化などが挙げられるでしょう。仕事の多い都市部へ若者が流出し、過疎化の進む地方が多いのが現状です。感染症対策によってリモートワークが拡大したものの、緊急時には都市部の会社に出社可能な距離の地方が居住地として選ばれやすいという理由もあります。観光資源が豊富で多くの観光客が訪れる地方でも、若者や移住者が少なければ、人口減少は避けられません。経済力を高めるのと同時に、自立して生活できる雇用を数多く提供し、若者人口を増やしていくことが大きな課題といえます。
メタバースで若者・移住者を増やす
メタバースなら、WEB上の空間で社会活動・経済活動を行うことができるため、距離が障害になりません。地方からでも大都市からでも、同じようにアクセス可能です。たとえば、メタバース上でアバター同士直接やり取りをしながら名産品の売買や商談をすれば、地方に住んでいても仕事ができます。現実世界では豊かな自然の中で暮らしながら、仮想空間では大都市で暮らすのと変わらない規模の取引ができれば、移住者を増やすことも期待できるでしょう。また、メタバース上では日常的に集まって人々と交流できるため、社会との接点を持ち続けることが可能です。移住者や若者が孤立感を味わうことも防げるでしょう。
地方創生への活用方法
メタバースでは、大規模なイベントの開催も可能で、距離に関係なく全国からの参加を呼び込むことができます。地方の知名度アップ、魅力発信にも最適です。たとえば、メタバース上に展開する観光地を自由に歩き回る仮想観光体験を通じて、地方文化や名産品に興味を持ってもらうという方法があります。現実世界でも訪問したいと感じてもらえれば現地の集客が見込めますし、仮想空間内の店舗での接客をECサイト機能とリンクさせれば、売上促進効果が期待できるでしょう。デジタル資料館や博物館に入館料を設定する、有料のライブイベントを開催するという方法での活用も考えられます。
内閣府が後押し?「メタバース分科会」とは
「メタバース分科会」は、内閣府による「地方創生SDGs官民連携プラットフォーム」の中に設置された分科会です。地方創生とSDGs課題解決にメタバースを活用するため、先端分野の人材交流や事例勉強会を行い、地方創生に繋がる新事業を創出することを目指しています。具体的な活動は下記の通りです。
- 「事例勉強会」に、メタバースネイティブを招き、知識と情報を共有する
- 「セミナー」形式で、これまでのメタバース活用実績から同様事例の創出を図る
- 「マッチングイベント」で地方公共団体や府省庁と民間の意見交換を行い、交流を深める
年度内に数回ずつ行われる活動により、内閣府の後押しで官民連携・異分野連携を図り、新事業の創出を目指す分科会です。
メタバースを活用した地方創生を6選ご紹介
メタバースを活用した地方創生は、様々な地域で行われています。官民連携、異分野連携で取り組んでいる事例を、6つ選んでご紹介しましょう。
1.兵庫県:養父市
兵庫県養父市(やぶし)では、吉本興業との官民連携でメタバース『バーチャルやぶ』による地方創生の取り組みを行っています。メタバース上で「日本の滝100選」の天滝や、ウインタースポーツで有名なハチ高原を始めとした観光スポットが体験できるほか、充実したコンテンツが揃っています。かつて日本一のスズ鉱山だった明延鉱山を再現した仮想見学ツアーでは、吉本芸人とコラボした採掘ミニゲームを提供。鉱山鉄道の一円電車に乗車できるコンテンツでは、メタバースならではの体験として、空を飛ぶ電車で養父市の観光名所を巡ることが可能です。養父市役所では、アバターの写真入り「メタバース市民証」が発行できるなど、養父市に親近感を抱いてもらう工夫も施されています。
バーチャルやぶはこちら
2.兵庫県:淡路島
兵庫県にある淡路島では、人材サービス会社パソナが開設した『淡路アバターセンター』との連携により、地方創生に取り組んでいます。東京から本社機能の移転を進めるパソナは、メタバース上で働くことを支援して、アバターを操作して遠隔接客を行うなどの新たな仕事を創出。また、アバターによる淡路島での仮想生活を体験してもらうことで、現実世界での移住者を増やすことを目指しています。
『淡路アバターセンター』はこちら
3.鳥取県
鳥取県は、メタバースによる地方創生をテーマにしたNFTカードゲームで使用できる、『ASTROBOY x JAPAN(ご当地アトム)NFT』の第一弾ご当地コラボを行っています。『ASTROBOY x JAPAN(ご当地アトム)NFT』は、NOBORDER.z(ノーボーダーズ)と、世界最大の暗号通貨取引所バイナンスのバイナンスNFT、鉄腕アトムの手塚プロダクション、J&J事業創造の共同プロジェクトです。鳥取県は、宇宙産業に関する様々な取り組みと、日本一の星空継続観察都市という実績があり、「星取県」のブランディングを進めています。県内の景勝地・文化・食と、アトムの姿がコラボしたNFTカードで、国内外に鳥取県の魅力を発信。プロジェクトで得た収益の一部は各地域産業に寄付して還元され、地方創生に役立っています。
『ASTROBOY x JAPAN(ご当地アトム)NFT』はこちら
4.和歌山県:白浜町
白浜町では、SBINFT株式会社との官民連携による地方創生の取り組みとして、『バーチャル白浜』というメタバース上のイベントを開催。7日間にわたり街の壁を塗り替えるという世界的壁画アートイベント「POW!WOW!!JAPAN」が、現実世界の白浜町で開催されるのと連動して、バーチャル上で白浜町を再現したものです。アート・音楽・ダンスなど多様なカルチャーを通じて白浜の魅力を発信。さらに、NFTマーケットプレイスも運営して、コラボ作品の出品・販売を行い、収益を上げました。現地に行って体験するものだった地方のお祭りやイベントを、メタバース上でも同時に開催することで、現地の雰囲気を味わいながら、遠方から参加することを可能にしたのです。
5.静岡県:榛原郡川根本町
川根本町は、温泉・SL・夢のつり橋・奥大井湖上駅など多くの観光資源を持ち、年間数十万人の観光客がありながら、人口減少により静岡県の中で消滅可能性の一番高い町といわれる自治体です。メタバースによる地方創生の取り組みとして、Vma plus株式会社によるプロジェクト『Vマ+街道』と連携し活動しています。メタバース上に開設された川根本町のサテライト販売所『田舎の直送便』では、音声通話で生産者と直接会話をしてコミュニケーションを取りながら、買い物を楽しむことが可能です。川根茶・柚子などの特産品の販売とともに、南アルプスの大自然や観光名所を体験してもらい、町の魅力を発信しています。
『田舎の直送便』はこちら
6.国土交通省:九州地方整備局
九州地方整備局は、茨城県つくば市の土木研究所と連携して、全国初のメタバースを活用した河川の3Dモデルづくりを実現しました。これまで地元説明会では、アナログ作業のパースや模型を使用していましたが、ゲームエンジンを活用し、デジタルの測量データを利用した低コストでリアルな河川の3Dモデルを作成。メタバース上で、地域住民に整備完成後の河川を事前に疑似体験してもらえるようになったのです。
国土交通省:九州地方整備局のメタバースはこちら
メタバースによる地方創生の課題や将来性
メタバース全体の課題としては、多くの人が安心して使える運用時のルール作りや、利用者の個人情報を守るセキュリティ整備、参加者同士の交流で起こる誹謗中傷の防止対策などが挙げられるでしょう。地方創生に活用する際の課題としては、現実以上の価値の提供や、1回限りで終わらせない工夫、インフラの整備が挙げられます。しかし、メタバースによる地方創生には、課題とともに豊かな将来性もあるのです。
現実にはない、仮想空間ならではの付加価値
地方創生で魅力を発信することを考えたとき、単に「地方の自然や観光地を仮想空間で展開する」という発想では、現実を超える体験にはなりにくいでしょう。通信速度や描画技術の制約があり、現実以上の美しい景色を再現するのが難しいからです。現実を仮想空間に置き換えるだけではなく、新しい価値や付加価値を提供する必要があります。たとえば、空からの視点や、近づくのが困難な場所を拡大して至近距離で見るなど、稀少価値のある体験。学校のクラス単位でワークショップに取り組むなど、コミニュティで参加できるプログラムも有効でしょう。
1回限りで終わらない、リピーターを増やす工夫
メタバース内に観光地を作るだけでは、まだ現実世界で「ハコモノ」を建設しただけの段階です。仮想空間への訪問を繰り返したくなる楽しさ、魅力的なコンテンツを提供することで、観光地まで実際に足を運んでもらえる可能性も高まります。地方への興味が持続するような仕組みづくりも重要です。たとえば、メタバース内に利用者同士がコミュニケーション可能なエリアを設置。幅広い人々と出会い、交流する機会を作れば、滞在時間を延ばして、リピート訪問を促すことができるでしょう。
インフラが整うことで今後のさらなる発展も
まだ同時に接続できるキャパシティが数百人ほどのサービスも多いメタバースですが、今後インフラが整備されれば、万単位の人が安定して接続できる可能性が出てきます。通信速度がアップすることで、細やかで美しいコンテンツを大量に提供できるようになるでしょう。利用者が多くなり、魅力的なコンテンツが増えれば、さらなる発展も期待できます。
【まとめ】「メタバースで地方創生」の将来性を活かしたマーケティングを
内閣府も後押しする、メタバースを活用した地方創生。すでに行われている6つの事例をご紹介しましたが、遠隔地という不利を超えて地方の魅力を世界に発信できるだけでなく、メタバース上の物品販売などを活用すれば地域に経済効果をもたらし、現実世界でも観光客の誘致や移住者の増加が期待できる方法です。将来性のある「メタバースで地方創生」を、ぜひマーケティングにも活かしてみてはいかがでしょうか。