アナログな賃貸不動産業界の特性
顧客や業者との連絡方法は電話やFAXが主流
賃貸不動産業界では、物件情報の問い合わせや内見予約などのほとんどが電話やFAXで行われているのが現状です。メールやSNSなどの活用も進んでいますが、まだまだアナログな方法が主流です。
賃貸不動産の取引は、物件の所有者(大家)や仲介業者、その物件の管理会社や借り手(入居者)など、多くの人間関係を伴っています。これらの関係は信頼やコミュニケーションが重要であるため、電話やFAXであれば、直接相手と話せる、書面で残すことができるなどのメリットがあります。
しかしその一方で、相手が不在がちの場合は連絡に時間がかかり業務が滞ってしまうことや、会話の中で必要な情報が抜け落ちてしまう可能性、説明不足で誤解が生じるなどのデメリットがあります。また、FAXによる送付では送信ミスや書類の紛失などのリスクが考えられます。
書類のやりとりが多い
賃貸不動産業界では、契約書や重要事項説明書など、多くの書類のやりとりが発生します。これは、契約書類については書面での交付が法律で義務付けられていることが理由ですが、正式契約の場合は入居希望者が直接不動産会社のオフィスに来て書類に記入する必要があるなど、多くの時間と労力が必要となっています。
また、書類は保管や管理に手間がかかることに加え、紛失のリスクや情報の共有・更新にも時間がかかります。物件情報についても同様で、最新の情報に更新するのが遅れた場合、入居希望者に誤った情報を提供してしまう可能性があります。
現地内見が必須
賃貸不動産業界では、物件の状態や周辺環境を実際に確認するため現地内見が必須です。それにより、不動産会社は内見の予約や案内、契約後の立ち合いなどの内見に伴う業務も多くなっています。
現地内見は、物件の魅力をアピールするために大変重要です。しかし、内見予約は電話やメールで行うことが多いため、予約の取り消しや変更が発生した場合に連絡のやり取りが煩雑になる可能性があります。また、内見時の案内では物件の特徴や周辺環境の説明がありますが、これにも時間や労力が必要となっています。
アナログな賃貸プロセス
現在、賃貸物件に入居するプロセスは次のような流れとなっています。
入居希望者は、インターネットや雑誌などで物件の情報を検索します。しかし、物件の情報は仲介業者や管理会社がそれぞれに持っていることが多く、一元的に管理されていないケースも少なくありません。そのため、物件の空室状況や条件などの最新の情報を入手するのが困難であることに加え、物件の写真や動画などのメディアも不足していることが多く、実際に見学しないと物件の雰囲気や設備などを把握できないことが一般的です。
次に、気に入った物件が見つかった場合、仲介業者に連絡して物件の内見を予約します。内見時には仲介業者が同行して、物件の説明や交渉を行います。しかし、内見できる物件数や時間は限られており、ニーズに合った物件を見つけるのは簡単ではありません。また、仲介業者のスキルや対応も顧客満足度に影響します。
物件が決まったら、契約の手続きを行います。契約書や重要事項説明書などの書類を印刷して、サインや押印をする必要があります。また、保証人や連帯保証人の確認も必要です。これらの手続きは時間やコストがかかるだけでなく、書類の紛失や記入間違いのリスクもあります。
このように、賃貸不動産の取引は現在でもアナログな方法で行われており、業務の効率化や生産性の向上が課題となっています。
DXの必要性とメリット
DXとは、デジタル技術を活用してビジネスや社会の変革を促すことで、さまざまな可能性を秘めています。現在、賃貸不動産業界は人手不足や少子化による世帯数の減少などの問題に直面しています。これらに対応するには、既存の方法やサービスを見直し、顧客のニーズや行動に合わせて変化することが必要となっています。そのため、賃貸不動産業界においてもDXを導入することで次のようなメリットが期待できます。
業務効率化の実現
現状のアナログな業務をデジタル化することで、業務の効率化が実現できます。例えば、物件情報がオンライン化されれば問い合わせなどの対応が軽減され、内見についても予約や変更が簡単に行えるようになります。また契約手続きに関しても、電子化により契約書の作成や締結の効率化が期待できるなど、これまでマンパワーが必要だった作業が軽減されることから労働環境の改善にもつながります。
顧客サービスの向上
DXにより顧客サービスの向上も期待できます。物件情報のオンライン化により、顧客はいつでも場所を選ばずスムーズで迅速な情報収集が可能になります。内見についても、VRやARのような技術を導入することで現地に出向く手間が省けます。また、オンライン契約が可能になれば顧客は自宅からでも契約を結ぶことができるため、利便性が向上し顧客満足度のアップが期待できます。
新たなビジネスモデルの創出
デジタル化により、新たなビジネスモデルの創出も期待できます。AIやビッグデータの活用により顧客ニーズに合った物件を自動的に提案するサービスや、オンラインで全てを完結できるサービスなどが実現される可能性があります。
アナログから脱却した事例
賃貸不動産業界において、DXを成功させた事例はいくつかあります。ここでは、その中から2社の事例を紹介します。
株式会社あいホーム
宮城県富谷市に本社を構える「株式会社あいホーム」は、自社開発したバーチャル展示場を活用し、オンラインでの物件紹介を行っています。コロナ禍による外出自粛により展示場への来客数が大幅に落ち込んだ同社は、ノーコードツールを使ったバーチャル展示場を開発、2021年2月にオープンして遠隔からの接客を可能としました。すると、同年4月の前年同月比は2件、5月は5件も契約数が増加し、年間では128%増を実現しました。
上総屋不動産株式会社
茨城県土浦市に本社を構える「上総屋不動産株式会社」は、賃貸物件の管理や仲介を行う会社です。幅広い業務の中、電話による問い合わせが月に1500件ほどもありますが、個々の従業員によりスキルに差があることや連絡ミスなどの課題がありました。そこでDXを導入し、着信時に顧客情報や過去の会話履歴をパソコン画面に表示させるようにしたところ、適切な担当者にスムーズに取り次げるようになりクレームやミスが激減、質の高い顧客対応が可能となりました。
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