投稿日 2023.08.28

最終更新日 2023.08.28

リテールメディアに参入する企業が増加、日本のリテールメディアの現状を解説

リテールメディアに参入する企業が増加、日本のリテールメディアの現状を解説

なぜリテールメディアに参入する企業が増えているのか

リテールメディアは小売企業・広告業界・メーカーなどが取り組みを始めています。リテールメディアへの参入企業が増加する背景にはいくつかの理由があります。

新型コロナウイルス感染症により顧客の購買がオンラインにシフト

新型コロナウイルスが流行し、実店舗に足を運ぶ代わりにオンラインで買い物をする消費者が増えたことで、小売企業の販売方法は大きく変化しています。今まで取り組んでこなかったECサイトを立ち上げ、店舗をデジタル化した結果、顧客情報を効率よく収集する土台ができあがりました。加えて、AIなどのIT技術の進歩に伴い、データを分析・活用する環境も整備されています。リテールメディアはオンラインとの親和性が高い広告手法です。小売企業が持つ情報が感覚的なものにとどまらずデジタルデータとして扱えるようになったことで、参入が加速しています。

サードパーティーCookieの規制

ユーザーがアクセスしたサイトとは関係がない、閲覧履歴を元に作成されるサードパーティCookieは、プライバシー保護の観点から廃止されました。サードパーティCookieは、効果的なターゲティング広告を行うのになくてはならない手法です。その影響を受けたWeb広告業界は、新たな選択肢として小売企業が持つファーストパーティーデータに注目しました。ファーストパーティーCookieは規制の対象とはなっていないため、小売企業と協賛してリテールメディアを拡大させています。

商品販売以外の収入源が見込める

節約志向の高まりに加え、消費行動がモノからコトへと変化し、物が売れない時代に突入しています。小売企業やECサイトは新たな収入源を見つける必要があり、メーカーの商品を宣伝することで広告収入が得られるリテールメディアに期待が集まっています。

リテールメディアが広告業界にどのような影響を与えているのか

従来型の広告に代わり、リテールメディアが拡大することで、広告業界がタッグを組む対象に変化が現れました。これまでは、商品を売りたいメーカーの要望やWeb上で収集したデータを元に広告を作成・配信してきましたが、リテールメディアは小売企業が実店舗で収集した購買データがベースになります。また、広告の方向性にも影響を与えています。従来は、商品やサービスを認知してもらい、興味や関心を持つよう促すことが広告の目的でしたが、リテールメディアは購買情報が起点となります。

広告業界は、これまで手にすることのなかったデータを詳細に分析し、培ってきた経験を元に効果的な広告を作成できます。実店舗やECサイトに訪れる消費者はもともと購買意欲が高いため、費用対効果が高い広告の作成も可能になりました。

日本企業のリテールメディアの参入状況

ウォルマートなど海外企業がリテールメディアにおいて成功していますが、日本企業の参入も目立つようになり、実績も顕著になってきました。ここでは、3つの業界の取り組みと具体的に得られた成果や可能性をご紹介します。

コンビニ

国内最大手のコンビニチェーン・セブンイレブンでは、2022年9月に「リテールメディア推進部」を新たに発足させ、自社アプリや店舗内のサイネージを活用した広告配信に力を入れています。一例として、アプリで入手した購買データを活用して、ある商品の購入歴を持つ顧客にSNSで類似商品の広告を配信したり、アプリ上でバナー広告を掲載する取り組みを行っています。その結果、顧客の購入率が2倍以上にアップしました。

ファミリーマートでは、店舗自体をメディア化する形でリテールメディアを展開しています。例えば、デジタルサイネージやレジ前のモニター・チラシを活用するほか、ラジオに似た番組「ミックスファム」を店内で流しています。顧客の平均滞在時間を考慮し、五感に訴えかける取り組みを進めた結果、売上が最大で7割アップした商品も出てきているようです。

ドラッグストア

マツモトキヨシでは、メーカーと協同して販売促進できる仕組みを設けました。同社とメーカーが広告の対象とする商品を検討して、メーカーが広告の出稿を同社に依頼します。そして、作成された広告をアプリに配信して顧客に来店を促すという方法です。この手法で成果が上がったのが、動画での広告配信を行ったデオドラント商品です。商品の認知や訴求、来店プッシュなど4つのフェーズに分けて動画を作成して消費者にアプローチした結果、アプリ会員の購買率は施策前よりも7割以上アップしました。

量販店

ヤマダ電機は、IoTやAIの活用を得意とするDX支援会社・アドインテとタッグを組み、実店舗のデジタルサイネージとアプリにリテールメディアを展開しています。アプリと連動させてサイネージ広告を発信する取り組みは、アドインテが開発したIoT端末「AIBeacon」により可能になっています。すでに、全国にある店舗数の10倍を超えるサイネージメディアが設置され、アプリのダウンロード数もAndroidだけで1,000万以上となっていることから、メディアの成長とともに広告収入も期待されています。

 
リテールメディアの日本企業の事例を知りたい方はこちら

小売店やEC業者がリテールメディアを成功させるには

リテールメディアはこれまでにない取り組みであるため、二の足を踏んでいる小売店やEC業者もいるでしょう。ここでは、リテールメディアを成功に導くポイントを3つに絞ってご紹介します。今後の展開の参考にしてください。

広告戦略につながるデータの取得

リテールメディアの展開に消費者の行動データは欠かせませんが、やみくもにデータを集めるだけでは効果的な広告戦略は立てられません。来店回数や足を運んだ売り場、手にした商品などの詳細情報と、実際に消費者が購入した品目をセットにして、顧客ごとにデータを収集すると広告戦略立案に役立ちます。情報が詳細であればあるほど、興味がある商品や広告効果の見込みなどが明らかになるはずです。また、同様の志向を持つ消費者の傾向を把握する助けにもなります。そこまで情報を収集・分析すると、顧客一人一人あるいは同じような購買行動の消費者に向けて効果的な広告を提供できるでしょう。

バラエティに富んだ広告メニューを用意する

小売店やEC業者の広告は、店内やサイト内のPOPやクーポンなど、消費者が購入するタイミングでの媒体がほとんどです。消費者が商品やサービスを購入するまでにはいくつかの段階があります。自身の必要を意識すること、情報収集、問題解決に役立つ商品の選定などです。これら購入に至るまでのステップに応じた広告メニューを展開できれば、消費者に対して効果的なアプローチが可能になります。例えば実店舗の場合、店内にビーコン端末を設置し、顧客のスマートフォンの位置情報を活用してお得な情報やクーポン、チラシなどを配信できます。スマートフォンと連動してデジタルサイネージを表示させるのも効果的です。

消費者にとって有益な情報源となる広告を提供する

上述で広告メニューを多数用意する必要性に言及しましたが、広告は多ければよいというものではありません。表示される広告が多すぎると、顧客が離れる危険性があります。マーケティング担当者にとって商品やサービスの売上推移は気になるでしょう。それでも、リテールメディアを展開することで広告収入が得られるため、小売りやECサイトで得られる収益とのトータルバランスで考えると良いかもしれません。あくまで、消費者のニーズに合う情報をタイミングよく提供し、継続的かつ良好な関係を維持していくことが重要です。

リテールメディアの消費者へのメリット

リテールメディアは、小売企業や広告業界だけでなく消費者にもメリットがあります。顧客の行動データを元に広告配信するリテールメディアがあると、消費者は自分が必要としている情報を最適なタイミングで得られます。買い忘れを防ぎ、場合によってはクーポンを利用してお得な価格で商品を購入できるかもしれません。タイムパフォーマンス(タイパ)が重視される昨今では、最短時間で最大効果を得ることが重視されています。役立つ情報が適宜配信されれば、顧客は短い時間で快適に買い物ができるでしょう。

この記事の監修者

冨塚 辰

冨塚 辰

プロジェクトマネージャー