リテールメディアとは?
リテールメディアとは小売事業者が自社の顧客情報・商品購買情報を活用し、消費者に向けて効果的なプロモーションをかける媒体や仕組みそのものを指す言葉です。アメリカでは2019年頃から、日本では2021年頃から急速に市場の成長が始まりBtoBのビジネスモデルとしても注目を集めています。「ネットショッピングの普及」と「サードパーティクッキーの規制」の2つがリテールメディア拡大の主な要因です。また、リテールメディアでは自社制作の広告を流すこともあれば、広告枠を商品メーカーに販売するケースもあります。
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リテールメディアの種類
リテールメディアには様々な種類があり、どのメディアを活用するかは企業次第です。複数のリテールメディアを活用して有機的に結び付けている施策も珍しくありません。ここでは一般的によく知られているリテールメディアについて3つ紹介します。
デジタルサイネージ
小売店の店内やエントランスに設置されているデジタルサイネージは、リテールメディアのメインツールと言っても過言ではありません。デジタルサイネージは小売店のIoT機器と連携することによって顧客の行動を察知し、適切なタイミング・適切な内容でのプロモーションを可能としています。映像と音声でアプローチの幅も広く、業界を問わず様々なシーンで用いられているのです。デジタルサイネージで流す広告は差し替えが容易なため、曜日や時間帯によって効果的な内容を瞬時に呼び出すことができます。また、AIカメラによってデジタルサイネージの広告から「どれくらいの人が」「どの程度の時間視聴し」「何割が購入に至ったか」など、様々な情報を収集できる点も大きな利点です。ポイントカードやクーポン機能を備えた店舗アプリとデジタルサイネージを連動させるシステムも見られます。
アプリ広告
小売店が各自で展開している専用アプリも、リテールメディアの主軸となっています。アプリ広告は利用者が見ている小さい画面内で表示されるため認知されやすく、コンバージョンに繋がりやすいという点が特徴です。ネットショッピングの需要が高まったことから、アプリ内で商品検索から決済までを完結させるECアプリのリテールメディア化も進みました。アプリは愛用しているツールがあるという人も多く、適切な広告を表示すれば継続的なプロモーション効果が見込めます。
Web広告
リテールメディアの効果測定という意味では、Web広告がおすすめです。Web広告ではクリック率やページ滞在時間など、様々な観点からリアルタイムな顧客行動データを収集できます。課題が見つかったらすぐ改善に着手できるため、広告の質を高く保ちやすくコストパフォーマンスに優れているのです。
実施に必要な準備
リテールメディアを展開するためには、入念な事前準備が重要なポイントです。効果的な施策を実現するためには、以下の内容を踏まえてしっかり準備を整えましょう。
効果測定用Beaconの設置
実店舗での効果測定を正確に行うためには、無線通信のBluetooth技術を活用したBeaconを設置する必要があるでしょう。Beaconは縦方向の位置情報把握にも強く、2階以上のフロアにある店舗でも正確に棚前行動や来棚計測といったデータを集計可能です。ボタン電池型・乾電池型・USB型など様々なタイプがあるので、店舗事情に合わせたものを採用しましょう。
ターゲティング用ID-POSの利用許可
小売店が収集している「どんな人が」「どんな商品を」「いつ」「どこで購入したか」といったデータを、顧客情報と結び付けたものがID-POSです。ID-POSを広告主であるメーカーが活用できるようになると、的確なターゲティングが可能になりプロモーションの質が向上します。
広告メディアのメニューおよび資料作成
リテールメディアで広告を募ると、出稿を希望するメーカーから問い合わせが来るようになります。その際、スムーズに詳細を提示できるように広告メディアごとのメニューや資料を準備しておきましょう。具体的には以下のような情報をまとめておきます。
- メディア別の配信費用
- IMP(広告が表示された回数)
- CTR(表示広告がクリックされた回数の割合)
- CPM(広告1,000回表示ごとの広告費用)
- CPC(広告1クリックあたりの料金)
- 広告クリック数
- 来店者数
- 来店単価
- 来店率
- 顧客セグメント
リテールメディア実施のステップ
リテールメディアを成功させるには1つ1つステップを着実にこなすことが大切です。一般的には次のようなプロセスで取り組みが進んでいくので、自社で実施する際の参考にしてみてください。
顧客分析とターゲティング
まずは自社の顧客セグメントの中から特に購買見込みの高い層を特定し、プロモーションの方向性を固めます。「行動傾向」「購買行動」「デモグラフィック」「ライフスタイルインサイト」の4カテゴリーで細かく分析して、広告効果を最大化させるための下地を整えてください。
ターゲット層に向けた広告配信
方針が固まったら実際の広告配信に移りますが、ここで押さえておきたいのが「オウンドメディア」と「ペイドメディア」についてです。自社保有のコンテンツであるオウンドメディアでは、クーポンやキャンペーン情報の配信などキメ細かいプロモーションで来店促進をメインに展開します。一方でSNSや他社サイトなどのペイドメディアでは、まだ自社を知らないあるいは自社への関心が低い見込み顧客へのアピールがメインです。リテールメディアの導入初期段階では一般的に認知度の向上が重視されるため、ペイドメディアを積極的に活用するケースが多いと言えるでしょう。
インストアプロモーションの実施
リテールメディアの効果を実店舗での売上に還元するにはインストアプロモーションが重要となります。インストアプロモーションは店頭や棚前での販促活動のことで、ここで活躍するのがデジタルサイネージです。実店舗の強みである「商品の実物を確認できる」という点を生かし、デジタルサイネージの映像で商品理解度を高めてもらい購買意欲を刺激します。IoT端末やAIカメラによって顧客行動を把握して、ニーズに対するインストアプロモーションの精度が高まるのもリテールメディアのメリットです。
効果測定と改善
ID-POSをはじめ多種多様なデータを活用できるリテールメディアでは、多角的な効果測定によって取り組みの改善を行います。認知・来店・来棚・購買(もしくは非購買)という一連のプロセスの中で、商品の販売に繋がった場合とそうならなかったパターンを比較して改善点を洗い出しましょう。
リテールメディアを始める際の課題
小売店・メーカー・消費者のすべてにメリットが期待できる「三方良し」のリテールメディアですが、現状の運用システムでは以下の2点が課題とされているので留意しておきましょう。
小売とメーカーの行き違い
リテールメディアは小売店が中心となって運用するプロモーション方法ですが、広告を出稿側であるメーカーとの思惑が最初から一致しているとは限りません。例えば「売り出したい商品が双方で異なる」「改善すべきKPIの意見が食い違う」といったケースが挙げられます。限られた広告予算の中でやりくりしているメーカーとしては、1つ1つのプロモーションで結果を出すことが重要です。そうしたメーカー側の事情を汲み取りながら、自社の意向とメーカーの思惑をどういった形でリテールメディアに落とし込むかを考える姿勢が求められています。
個人情報の取り扱い
リテールメディアの根幹を成すのは自社が集積してきたファーストパーティデータであり、そこには顧客の個人情報が多分に含まれています。万が一情報漏えいに繋がれば顧客や取引先メーカーからの信用を大きく失墜させる事態になり兼ねません。リテールメディアにおけるデータ活用では、厳重なセキュリティ対策とプライバシー保護の意識が求められているのです。
運営する際の注意
リテールメディアの運営に際して注意しておきたい点は主に以下の2点です。
大切なのは「消費者目線」であること
リテールメディアでは顧客の関心が高い広告を提供できる点がメリットですが、重要なのはその広告が「消費者にとって有益かどうか」です。いくら関心がある分野の広告でも、数が多過ぎれば消費者は情報の取捨選択に苦しんでしまいます。また、そもそものターゲティングやメディア選択が間違っていると、広告のクオリティが高くても意味がありません。リテールメディアで三方良しを実現するためには、まず消費者目線に立った体験設計を心がけましょう。
PDCAサイクルの意識
リテールメディアは一時的に成功しても、ずっとそのままの効果が継続していくとは限りません。流動的に変化する顧客ニーズに対応するためには、リテールメディアにおいてもPDCAサイクルを回して品質向上に努めることが大切です。継続的に効果測定を行い、課題点が判明したらすぐにアクションを起こせる体制を構築しておきましょう。必要であれば出稿メーカーとの調整も行ってください。