従業員全員が同じ方向を向くためには、経営状況や戦略などを全社員がいつでも見られる状況にしておくことが大切です。ビジネスの世界では「見える化」や「可視化」と言った言葉が使われていますが、実はそれぞれ違う意味を持つ言葉だと言うことを理解できているでしょうか?
そこで今回は、混同して使いがちな「見える化」と「可視化」という言葉の違いについてご紹介します。「見える化」も「可視化」も業務効率を上げるために、欠かせない言葉の一つ。違いを理解して、上手に使い分けしていきましょう。
「見える化」と「可視化」の意味について
まずは、「見える化」と「可視化」の言葉の意味の違いについて触れていきましょう。
「見える化」とは?
1988年、トヨタ自動車が発表した論文の中で、初めて使われたとされている「見える化」という言葉。「生産保全活動の実態の見える化」という論文にて“見える化”という言葉が使われ、それ以来ビジネスの世界では欠かせない言葉の一つとなっています。
トヨタ自動車では、当時から“見える化”に対する取り組みが行われていました。トヨタ自動車では、生産ラインで異常が起きたときにランプを点滅させることで、他の場所にいる作業員もすぐ異常に気づけるという“見える化”を利用したシステムを開発。
生産の現場から生まれた“見える化”は、今や他の業界でも当たり前に使われる言葉に。「いつでも見られる状態になっている」ことに対して、“見える化”という言葉が使われるようになりました。
「可視化」とは?
「可視化」という言葉は、「見える化」という言葉よりも前から使われていたと言われています。可視化という言葉は、本来“目で見て見えないものを見えるようにする”という意味を持っていますが、ビジネスにおいては少し違った意味で使われるケースがほとんどです。
ビジネスの世界では、顧客のニーズや従業員の士気など、通常は目に見えないものを売上などのデータの推移を見えるようにした数値化する行動に対し、「可視化」という言葉が使われています。
データから消費者などのニーズの動きを確認できるようにすると、今まで目に見えなかったニーズが可視化されていくこととなります。また、これらのデータは、パソコンなどのデバイスを開かなければ見ることができません。従って、「見たい人が見たいときに見れる状況にする」ことが、「可視化」という言葉の意味となります。
「見える化」と「可視化」の違いは?なぜ混同されるのか
「見える化」と「可視化」それぞれの意味について解説しましたが、まだその違いにピンと来ていない人がいるかもしれません。どういった点が違うのか、おさらいしておきましょう。まずは、それぞれの意味を下にまとめました。
- 「見える化」…本来見えないものを、誰もが常に見られる状態にすること
- 「可視化」…本来見えないものを、見たい人が見たいときに見られる状態にすること
本来見えないものを見える状態にするという大きなくくりでは、それぞれ同じ意味を持つ言葉です。しかし大きく違うのは、「誰もが常に見られる」のか、「見たい人が見たいときに見られる」のかというところ。
それぞれの言葉が混同されてしまうのには、「見える化」という言葉が本来日本語として使われていなかったという背景があります。先ほどもお伝えしたとおり、「見える化」という言葉は、1988年に発表されたトヨタの論文内で使われた“造語”です。一方「可視化」は、それ以前からあった日本語であるため、「見える化」という言葉が定着する前に「可視化」という言葉が定着していた現場も少なくありません。
これが、「見える化」と「可視化」が混同されて使われる理由です。それぞれの言葉の区別があいまいなまま定着してしまっていますが、実は似て非なる意味を持つ言葉なので、きちんと使い分けていきましょう。
「見える化」と「可視化」のメリット・デメリット
企業にとって必要な「見える化」と「可視化」ですが、それぞれメリットとデメリットがあります。どういったメリットとデメリットがあるのか、確認していきましょう。
「見える化」のメリット
「見える化」は、業務改善の代名詞的存在として使われている言葉です。「見える化」にるメリットを、以下にまとめました。
*業務のプロセスがわかるようになる…業務の作業・手順が誰が見てもわかるような状態になる。
*ルールの合理化によるミスやリスクの低減…これまで不合理だったルールが見える化によって合理化され、従業員のミスやリスクの低減につながる。
*自発的な業務改善が期待できる…見える化することで今までよりも格段に問題が浮き彫りとなるため、従業員自身の改善の意識が高まる。
*属人化されやすいシステムの生産性が向上する…見える化により、今までわからなかった「誰がどんな仕事をしているのか」がわかるようになるため、業務の再分配が可能となり生産効率が向上する。
「見える化」のデメリット
「見える化」を推進することで、思いもよらないマイナスな現象が起こる可能性も否めません。「見える化」のデメリットを、以下にまとめました。
*「見える化」しすぎると従業員のモチベーションにバラつきが生まれる…見える化することで今までスルーされていたような点も浮き彫りとなる。例えば、売上データを見える化することにより、売上成績の良い従業員のモチベーションは上がるが、売上成績下位の従業員はモチベーション低下につながるという懸念もある。見える化するデータの選定は慎重に行なわなければならない。
*問題の本質がブレてしまう…見える化することで今まで見えなかったものが見えるようになるため、ついあれこれ見える化してしまうケースが少なくない。しかし、何もかも見える化してしまうと問題点が次々出てくることになるため、結局本当に解決しなければならない問題がわからなくなる可能性がある。
*探究心がなくなる…見える化されたものが与えられると、従業員自身が探究する必要がなくなるため、自ら動いて探究しようという気持ちを削いでしまう可能性がある。企業全体で「改善していく」という気持ちを強く持ち、見える化の見直しを定期的に行なっていけなければならない。
「可視化」のメリット
改善のための第一歩として必要な「可視化」。どのようなメリットがあるのか、以下にまとめました。
*業務の全体像が把握しやすくなる…可視化されたデータは、誰もが理解しやすい状態となっているため、これまで掴みきれていなかった業務の全体像が把握しやすくなる。管理職から現場まで皆が業務の全体像を把握できるようになるため、問題点発見までのスピードがアップし、改善に着手しやすくなる。
*情報共有による業務効率化…可視化された分析結果が社内で共有されると、全社員の問題改善に対する意識が高まることから、業務効率の向上に直結する。
*トレンドの分析が可能となる…社内各部署のデータや業務システムに蓄積されたデータは、可視化することでトレンド分析の材料となる。顧客ニーズが確認できるようになるため、より精度の高い売り上げ予測につながる。
「可視化」のデメリット
「可視化」には、いくつかデメリットや注意点もあります。よく確認しておきましょう。
*データの意味が理解できていないと正しい情報が伝えられない…可視化を行うためには、データの存在が欠かせないため、データの意味自体が理解できていなければデータを間違って統合し、正確な情報が伝わらないという事態を招きかねない。
*見る気がない人には伝わらない…可視化された情報は、時に膨大な量となるケースもあり、そもそも「可視化された情報を見る」という行動が起きなければせっかくの有益な情報は伝わらない。事実を端的に伝えることがカギとなる。
可視化の事例
「可視化」とはどのように行うのかということを、具体的な事例で確認してみましょう。例えば、MUJIブランドの商品を製造・販売する無印良品では、店舗における業務と本部の業務を膨大な量のマニュアルにまとめました。それまで特定の従業員しか持っていなかった経験やノウハウを、マニュアルで読める形にすることで標準化及び継承が可能になったのです。さらに、そのマニュアルは現場の声を取り入れ、ブラッシュアップできるようになっているので、マニュアルを作成したけれども情報が古くて使えないといったことは起きる心配はありません。
見える化の事例
「見える化」の事例ですが、例えばYKK APの工場では、消費したエネルギーの量と職場環境を常に見えるようなシステムを導入しました。外を吹く風の向きや温度などを測定したデータに基づき、窓の開閉を制御したところ空調に使うエネルギーの消費量を抑えることに成功しました。他には、アイシンの工場では、製造ラインを監視するシステムを導入することで「見える化」を行いました。生産の状況を記録し、どのように生産ロスが発生しているのかを把握できるようにしたことで、生産ロスの原因を特定し対策を講じて生産性を高めたのです。
物流の現場でも「見える化」による業務改善をしたという事例は少なくありません。ある化粧品会社では、対面販売、通販で販売する商品の在庫管理ができるシステムを導入したところ、出荷作業の時間を大幅に短縮できました。作業効率化によって削減された人件費を、集客効果のあるキャンペーンなどに回したところ、売上が増えました。このようにどのような現場でも、見えていなかった情報を見えるようにすることで、様々な改善が可能となったのです。
「見える化」と「可視化」の注意点
「見える化」と「可視化」を行う際、まず前提としてそれぞれの言葉の意味を混同させず違いをきちんと理解しておくことが大切です。「見える化」は業務改善に直結するようなステップを踏む必要があり、「可視化」は対象と目的を明らかにしながらデータを見出していかなければいけません。
それぞれの違いが理解できていなければ、必要なツールの選定も正確に行なうことができません。「見える化」にはプロセスマップやスキルマップの作成が必要ですし、「可視化」にはグラフツールの選定などが書かせません。
「見える化を行うべきか、可視化を行うべきか」をまず判断することが大切です。
まとめ
「見える化」も「可視化」も、業務の課題を見つけ改善していくために欠かせない手段の一つです。しかしそれぞれ違う意味合いを持ち、違う作業が必要であるということを理解できていなければ、組織を正しい方向へ導いていくことはできません。
「見える化」・「可視化」に着手するためにも、まずはそれぞれの違いを理解し、今どちらを行うべきなのかきちんと判断していきましょう。