リテールメディアとは?
リテールメディアは小売業者が主体となって運営する広告メディアであり、リスティング広告・SNSに告ぐ第3の波として注目を集めています。小売業者が商品販売データおよび顧客データを広告主と共有し、ECサイト・店舗アプリ・店頭サイネージといった媒体を利用して広告を配信する手法です。IT技術の発達に伴って顧客の行動データが集めやすくなり、顧客が欲しがっている情報を効率的に提供できるリテールメディアが考案されました。
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日本国内のリテールメディアの事例
リテールメディアはアメリカで大きな成果を上げたことで注目を集め、既に日本においても多くの企業で導入が進められています。ここでは日本で比較的よく知られているリテールメディアの事例を見ていきましょう。
ファミリーマート
コンビニ大手の一角ファミリーマートは業界内でもリテールメディアへの注力度が高い企業として知られています。店舗内に設置されている大型サイネージやレジ前のモニター、さらには紙媒体のチラシを活用してリテールメディアを展開。さらには平均滞在時間に尺を合わせたラジオ番組で商品やニュースを紹介するなど、五感のすべてに訴えかける広告が構築されているのです。リテールメディアで紹介した商品の中には売上が70%上がったものも。店内に搭載されたAIカメラで視聴率を統計し改善に取り組むなど、運用体制にも抜かりがありません。
セブンイレブン
先陣を切ったファミリーマートに負けじと、コンビニ大手セブンイレブンでも2022年9月にリテールメディア推進部が立ち上げられました。同社では強みである店舗アプリを有効活用してリテールメディアを配信、購入情報に関連性の高い広告をアプリ上やSNSへ展開しています。アプリは同社の決済システムnanacoやPayPayといったキャッシュレスツールと連携可能であるため、ユーザーは決済からポイント・クーポン利用をアプリ1つで済ませることが可能です。お財布代わりとも言えるアプリを機軸にしたリテールメディアは、販促活動との相乗効果によって購入率2.3倍という成果を上げました。
ヤマダ電機
大手家電量販店のヤマダ電機では、店頭のサイネージとアプリを連動させるスタイルでリテールメディアを展開。この取り組みではまず、購買データを基にしたモバイル広告をアプリへ発信して来店を促します。店前と店内の棚前にはそれぞれサイネージが設置されており、ここで広告が配信されている商品やコンテンツに関連するプッシュ通知がアプリに送られる仕組みです。来店時の購買行動はデータとして集計され、次のモバイル広告配信に繋がるというサイクルが構築されています。ヤマダ電機では既に700店舗へ7000枚のサイネージを配置して、本格的な運用に乗り出しました。起点となるアプリのダウンロードも1000万回を超えています。
アドインテ
先に述べたヤマダ電機のリテールメディアは、IoTやAI分野で事業を展開するアドインテ社の協力によって実現しています。ヤマダ電機ではアドインテ社の「AIBeacon」と呼ばれるIoT端末を活用しました。同社ではこの他にもジョンソン・エンド・ジョンソン、花王、サントリーなど各業界の大手企業へのリテールメディア導入実績があります。リテールメディアは小売業者のみならず、システムの開発・提供を手がける事業者にとっても大きなビジネスチャンスとなっているのです。
マツモトキヨシ
ドラッグストア大手のマツモトキヨシは、メーカーと共同で販促活動を展開するリーテルメディア「Matsukiyo Ads」を立ち上げました。本プラットフォームではGoogleの広告ソリューションを有効活用し、まずメーカーから出稿された広告をマツモトキヨシが配信します。メディアはYoutube広告・検索広告・ディスプレイ広告などがメインです。これらの広告はポイントカードアプリと連携しており、広告を見た利用客が店頭で商品を購入したか否かがデータとして集計される仕組みになっています。メーカーと協力してコラボ広告を配信した商品の中には、施策実施前と比べて購買率が176.7%に伸びたものもありました。
ボタニスト×ウエルシア薬局
小売店とメーカーの共同作業によるリテールメディアとしては、ヘアケアブランドのボタニストとウエルシア薬局の事例もよく知られています。ボタニストではいち早くWeb上でのプロモーションを展開していたものの、広告の成果が見えにくいという課題を抱える状態でした。そこで同ブランドではウエルシア薬局と提携し、商圏内エリアのターゲット層女性に向けた動画広告を配信。それと同時にウエルシアの店頭においてエンド棚を設置、店舗によってはさらにラウンダーを派遣することで販促と広告効果の検証を並行して行いました。施策実施前の月に比べて、同ブランドの売上は主要製品で約221%をマークしています。
イオン
大型総合スーパーを展開するイオンリテール株式会社では、Googleの協力を得てリテールメディアの構築に成功しています。同社ではお買い物アプリから得られる購買・顧客データをGoogleクラウド上に集約、アナリティクスやアプリ開発と連動させて効率的に情報を活用できる環境を整えました。これだけでもデータ処理の速度を1/6~1/8に短縮、さらには的確なターゲティングでメーカー広告を配信するためのプラットフォーム「イオンAD」を展開しています。
デリッシュキッチン
レシピ動画の配信を中心に展開しているデリッシュキッチンは、自社アプリやスーパーへのサイネージ広告設置で積極的にユーザー情報を集めてリテールメディアを構築しました。スーパーに入ると特売情報や料理履歴からおすすめの献立を提案、サイネージで紹介されている料理に関してもスマホからすぐにレシピが確認可能です。アプリでポイントカードやクーポンの機能を一元管理するなど、快適なユーザビリティが意識されています。忙しい方向けのサービスとして、レシピに基づいた食材をネットショッピングで購入する機能も。小売店の売上アップと自社コンテンツの利用促進を実現させました。
クックパッド
レシピコンテンツのリテールメディア事例としては、クックパッドによるものも挙げられます。クックパッドライブ株式会社ではリテイルメディア株式会社のミニサイネージを活用し、スーパーの店内でレシピ動画を流す「Cookpad storeTV」を展開しました。動画のレシピでは流通チェーンの販売計画に沿った食材を使用して、顧客の購買意欲を刺激する狙いです。また、同サービスでは小売業者側が広告枠をメーカーに販売できるという点が大きな特徴。レシピ動画4回ごとに広告が1回流れるという仕組みで、食品メーカーや調理器具メーカーが広告を流すこともできます。
日本国内のリテールメディアが市場に与える影響
日本では比較的新しいマーケティング手法として認知されているリテールメディア、今後の市場にどのような影響を与えるか期待を抱く人も多いでしょう。以下では日本におけるリテールメディアの現状と、今後予想される動きを解説します。
日本におけるリテールメディアの市場規模
株式会社CARTA HOLDINGSでは、2021年から2026年にかけてのリテールメディア市場を予想しています。この調査によると2021年におけるリテールメディア市場規模は約90億円ですが、2023年には3倍近い約245億円まで伸びると結論付けられました。その後も順調な成長を続け、2026年には約805億円まで市場が拡大するとも。また、2024年までは僅差でサイネージによる店頭広告がメインとされていますが、2025年以降はオンラインメディアが主流になると予測されている点も興味深いと言えるでしょう。
リテールメディアの今後の展望
リテールメディアは小売業者・消費者・メーカーの三者にそれぞれメリットが期待できるため、日本国内でも積極的に活用が進められています。小売店が顧客との取引で得た情報をメーカーが有効活用できるため、市場における「消費者のニーズ」が明確になっていくと言えるでしょう。また、小売業者やメーカーのリテールメディア参入は広告代理店が支援しているケースも多く、業界を横断して市場が活性化することが予想されます。特に日本は経済産業省が旗振り役となって各産業のDX化が急ピッチで推進されている状態です。デジタル化した情報を有効活用するリテールメディアは、まさに社会的な流れにマッチした手法なのです。人材や基幹システムの問題が顕在化すると言われている「2025年の壁」を前に、リテールメディア市場の拡大は加速していくでしょう。