投稿日 2023.07.27

最終更新日 2023.07.27

リテールメディアの海外での事例を分かりやすくご紹介

リテールメディアの海外での事例を分かりやすくご紹介

リテールメディアとは?

リテールメディア(Retail Media)とは、小売業界における広告およびマーケティングの形態を指す言葉です。従来の広告モデルでは、広告主はテレビ・ラジオ・新聞・雑誌などのメディアチャンネルを通じて広告を展開していました。リテールメディアでは、小売業者自体が広告主となり、自社のWebサイト・アプリ・店舗などの販売チャネル上で総合的に広告を展開します。
 
たとえば、小売業者のWebサイトやアプリケーション上で表示する広告や、店舗内のディスプレイやポスター、商品パッケージなどを利用したマーケティングが可能です。利点として、直接顧客と接触して購買行動を促進できること、リアルタイムのデータ分析や顧客行動のトラッキングが可能で、効果的なキャンぺーンを展開できることが挙げられるでしょう。リテールメディアの市場規模は成長著しく、2022年には世界で約12兆円、米国では半分を占める約6兆円の売上といわれています。
 
■リテールメディアに関して詳しく知りたい方はこちら

海外のリテールメディアの事例

海外のリテールメディアの事例
海外では、すでにさまざまなリテールメディアが展開されています。成功している主な3つの事例を中心にご紹介しましょう。

Amazon(アマゾン)

海外のリテールメディアの成功例といえば、世界的規模のオンライン小売業者であるアマゾンが挙げられます。アマゾンの有利な点として、世界で3億人以上といわれる顧客数を抱えるECサイトの購買データが利用できることに加え、自前のアドネットワークや各種動画サービスを活かせることが見逃せません。インターネット上だけでなく、2017年6月に食料雑貨店チェーンのホールフーズを買収したことで、米国内だけでも520以上のリアル店舗での展開が可能です。2023年4月にはクラウドプラットフォームを運営するAWS(アマゾン ウェブ サービス)を通じて、新たなAI言語モデルを提供することを発表するなど、確かな技術力も備えています。
 
アマゾンのECサイト上で展開するリテールメディアでは、商品ページ内や検索結果に、関連商品や類似商品の広告を表示することが可能です。過去の購入データを活用して、それぞれの顧客に対してパーソナライズされた広告が提供できます。自社の広告を展開するだけでなく、他の広告主にも広告を販売して大きな収益を上げています。2022年の広告売り上げは、前年同期比21%増の約377億ドル(1ドル140円換算で5兆2,780円)です。サブスクリプション(定額課金)の会員サービス「Amazonプライム」で得る収益を超えて、アマゾンの収益の柱のひとつとなっています。
 
アマゾンのリテールメディアがこれほど成長した理由のひとつに、プライバシー保護のために個人情報利用の制限が始まり、デジタル広告業界が大きな影響を受けたことが挙げられます。appleによるsafariブラウザでのサード・パーティー・クッキー制限を始め、2024年にはGoogleもchromeブラウザでの制限を行う予定です。デジタル広告市場では、利用者の識別が困難になって広告ターゲティングの精度が大幅に下がるなどの影響が出ています。
 
一方、アマゾンのリテールメディアでは、自社のECサイトから事業者が得ている顧客データである「ファースト・パーティー・データ」を活用して、ターゲティングの精度を上げることが可能です。プライバシー保護による制限の影響を大きく受けることなく、直接の成果につながりやすい広告施策が打てるのです。
 
Amazonのリテールメディアには、主に下記の種類があります。

  • ECサイト内の検索結果に表示する「スポンサープロダクト広告・スポンサーブランド広告」
  • 外部サイトへ広告を配信する「Amazon DSP」
  • Prime Video、Twitchなどの各種動画・ゲーム配信サービスでの「広告動画配信」
  • ECサイトから発送する「梱包箱での広告表示」
  • 食品スーパーアマゾンフレッシュ店内の「デジタル広告」
  • 同スーパー内のショッピングカートのスクリーンを通じた「オフライン広告」

中でも動画配信サービスでの広告配信には高い訴求力があり、Amazonの調査によれば、商品の検討度を41%増加させる効果があります。

Walmart(ウォルマート)

ウォルマートは米国で約4,700店舗を運営する世界最大の小売業者のひとつです。米国内のeコマース市場でシェア2位を誇る、大規模な食料品のECサイトも運営しています。ウォルマートのリテールメディアは実店舗とECサイトの両方で展開され、広告プラットフォーム事業「Walmart Connect」の売上は、2022年で前年比30%増の70億ドル(1ドル140円換算で約9,800億円)です。ウォルマートの実店舗の店内ディスプレイやポスターは、特定の商品やプロモーションの広告スペースとなっています。また、顧客の購買履歴を分析して、ターゲットに合わせたクーポンや割引情報を提供するなど、個別の顧客に対するリテールメディアを展開しています。
 

ウォルマートの自社ECサイトでは、下記のようなリテールメディア運用が可能です。

  • スポンサー商品の検索結果表示
  • ページのトップにある検索バナー広告表示
  • 広告主がオンサイトのディスプレイ広告の取り組みを制御できるDSS(ディスプレイセルフサービス)

実店舗・ECサイト・アプリでの顧客の購買行動を匿名化したデータとして利用し、「顧客のインサイトを見つけ出して、広告のターゲティングに役立てられる」という、広告主への価値提供も行っています。自社の動画配信サービスを持たないため、TikTok、Snapchat、Rokuなどの既存のプラットフォームとの連携によって、広告事業を拡大展開する予定です。

Ulta Beauty(ウルタ・ビューティー)

ウルタ・ビューティーは、米国最大の美容小売チェーンを展開するブランドです。美容カテゴリーでは最大規模という約3,700万人の会員を抱えるロイヤルティ会員プログラムで、総売上高の95%を超える売上を上げています。購買意欲の高い会員数が多いという強みを生かし、2022年5月にリテールメディアとしての「UB Media プラットフォーム」を開設することを発表しました。広告主は約3,700万人のデータを活用し、ターゲティング広告を打つことができます。

    ウルタ・ビューティーのリテールメディアでは、下記のような広告運用が可能です。

  • ECサイトでのディスプレイ広告
  • ECサイトでの動画広告
  • SNS広告
  • インフルエンサーマーケティング
  • ウルタ・ビューティーが所有する施設でのスポンサー付き商品の配置

さらに、広告にどのような反響があったかを広告主が効果を分析できるよう、「クローズドループ」キャンペーンレポートサービスも行っています。

海外市場と日本市場のリテールメディアの比較

リテールメディアの市場規模は2022年に世界で約12兆円といわれていますが、日本国内ではまだ約135億円と、これから大きな成長が期待できる分野です。海外市場と日本市場の違いとして、米国アマゾンを始めとした海外のリテールメディアは、主にEC上で展開されていることが挙げられます。ECサイト上での広告は、直接的に売上と結びつきやすく、広告効果もはっきりとわかるため、広告主の投資を促しやすいのがメリットです。SNSなどでは広告色が強い広告は避けられがちですが、販売が目的のプラットフォームに集まる顧客は購入意欲が高く、広告らしい広告を避ける傾向も少ないでしょう。リテールメディアに向いた強力なECサイトを持つことが、海外市場の強みといえます。
 
一方、日本の小売企業は、ECサイトよりも、実店舗数の多いコンビニエンスストアなどがリテールメディアに力を入れています。たとえば、セブン&アイ・ホールディングスは2022年に「リテールメディア推進部」を立ち上げました。スマートフォン向けの公式アプリ「セブン‐イレブンアプリ」は2000万件近くもダウンロードされています。アプリ上では広告配信を行っているほか、利用者自身でのポイントの管理、在庫検索などが可能です。顧客に個別のIDを付与して、購買データとアプリ上の閲覧履歴・クーポン利用などの行動データを紐付けることで、効果的な販促施策を展開しています。
 
ファミリーマートはデジタルサイネージを活用したリテールメディアの展開を始めました。3面スクリーンの「FamilyMartVision」を、レジ上中心に設置し、全国16,000以上の店舗でコンテンツを配信しています。エンタメ情報・ニュース・商品やサービスを紹介するオリジナル番組を配信することで、視認性を高め、買い物中の顧客に直接アプローチすることが可能です。実際に、「FamilyMartVision」のない店舗に比べて、売上・広告商品・ブランドの認知率の向上が見られました。一方通行の配信だけでなく、「FamilyMartVision」を見た人の数や属性、視認秒数などを自動認識できるAIカメラを取り付けて、効果測定も行っています。
 
海外と日本のリテールメディアの現状を比較すると、大きく分けて海外市場がECサイト中心、日本市場が小売店舗のアプリや店頭展開中心、という違いが挙げられます。日本の小売企業はまだ強力なECサイトを持ちませんが、今後は海外の事例も参考に自社のECサイトを育てて、さらなるリテールメディア展開を行う企業も多く出てくるのではないでしょうか。
 

この記事の監修者

冨塚 辰

冨塚 辰

プロジェクトマネージャー