概要
全国各地でタクシー・ハイヤー事業を展開する第一交通産業株式会社では、長年「電話」と「紙」をベースに支えてきた配車業務のDX化に踏み切った。段階的な開発・導入を経て、配車管理ツール『D-RESERVE』をリリースを実現したが、関連会社への展開やAIを軸にした業務効率化など彼らのDXへの挑戦はまだ始まったばかりだ。システム導入によって何が変わったのか、その先に見えてきた今後の展望についてプロジェクトの中心メンバーが語る。
ご担当
- 谷口様(第一交通産業株式会社)
- 業界の構造変化を見据え、デジタル化を推進するキーマン。
- 大口様(第一交通産業株式会社)
- 現場視点からプロジェクトを牽引。
“変革”ポイント
意識
“あったらいいな”から“やらなければならない”というDX化における社員の意識の変化
業務
経験に依存した仕組みからの脱却と効率化による対応件数の向上を実現
事業
配車データをシステムに蓄積させることによる新たな事業戦略の検討
“このままじゃいけないという強い危機感”
導入――「あったらいいな」から「やらなければ」に変わった瞬間

「あったらいいな、というより、今はやらなければという義務感に近いですね。」
第一交通産業株式会社・谷口様のこの言葉には、近年のタクシー業界を取り巻く環境変化が凝縮されています。
タクシー業界は今、大きな転換点にあります。最低賃金の上昇、地方の人口減少、人手不足。そして、海外発の配車サービスの台頭──。長年「電話」と「紙」をベースに支えてきたオペレーションは、もはや現場の頑張りだけではどうにもならない局面に差し掛かっていました。
谷口様:
タクシー業界は、どうしてもアナログに寄っているんです。でも国からはデジタル化しなさいという号令が出ている。最低賃金が上がれば、同じやり方では財源が足りません。地方ではお客様のキャパも限られている。だから、このままじゃいけないという強い危機感がありました。
第一交通産業株式会社は、全国のタクシー会社と横連携しながら、地域交通の中核を担い続けてきた企業です。しかしその立場だからこそ見える、業界全体の穴がありました。「電話で空きを確認し、紙で管理する」という当たり前。「特定の営業担当者だけが空き車両を把握している」という属人化。「メールを見ない人が一定数いる」という情報伝達の壁。──それらはすべて、変えなければ未来が危うい構造的な課題だったのです。そんな背景のもと立ち上がったのが、「配車業務と仕事管理のDXプロジェクト」第一交通産業株式会社とFabeeeがともに描く「業務×デジタル変革」の物語が、ここからはじまります。
“本当は業界の資産にできるもの”
課題と出会い――なぜこのプロジェクトは必要だったのか
業界が抱える構造的な焦り
谷口様が語ってくれた課題の核心は、業界全体の構造にありました。

谷口様:
タクシー会社って、地方ほど中小企業が多いんです。投資に回せる資金が少ない中で、デジタル化の波はどんどん押し寄せてくる。そこに海外の配車アプリやライドシェアが重なって、新しい課題も生まれています。
さらに、業界として握るべき仕組みを外部に渡してしまっているという危機感もありました。
谷口様:
配車アプリや請求システム、本当は業界の資産にできるものだと思うんです。でも気づけば外部のプラットフォームが主導権を握り、中抜きの構造ができあがってしまっている。2〜3割の手数料が抜かれるのは、本当に大きいんですよ。
この言葉の裏には、業界が下請け構造に置かれている現状への悔しさが滲んでいました。
現場のリアル──属人化が生む機会損失
全国の営業所・提携会社への手配を担う大口様は、現場ならではの苦悩を語ります。
大口様:
全国のタクシーを利用したいお客様の依頼を受けて、各地の営業所へ電話で空きを確認するんです。とくにジャンボタクシーは、空き状況を把握しているのが特定の担当者だけだったりして…その人がいなければ何も分からない。夜中に携帯へ電話することもあって、常に申し訳ない気持ちがありました。
情報が「人の頭の中」に閉じている世界では、
- 複数営業所の連携が取れない
- 機会損失が起きる
- 担当者が不在だと業務が止まる
といった問題は避けられません。
こういった課題を、DXによって解消したい──。その構想が、今回のプロジェクトの原点となりました。
自社開発の限界と、Fabeeeを選んだ理由
実は第一交通産業株式会社では、過去に自社内でのシステム開発にも挑戦してきました。しかし、既存システムの保守が中心のチームでは、新しい取り組みが前に進まないという壁がありました。
谷口様:
社内の情シスには社内の仕事があり、新規での取り組みには限界がありました。だからお願いしたらちゃんと動いてくれる外部の力を求めました。
そんな背景から、Fabeeeとの出会いにつながります。

谷口様:
Fabeeeさんはパッケージを売り込むわけでもなく、こちらに寄り添って作ってくれそうだと思った。コストパフォーマンスという点でも最適でした。大手は高いですから。
“業界全体にとっての価値になる”
共創のプロセス――認識のズレが埋まった瞬間
「要望を伝えれば理想ができる」と思っていた
大口様はプロジェクト当初を振り返りながら、こんな率直な気持ちを話してくれました。

大口様:
最初は、こちらの要望を言えば理想のシステムがそのまま出来上がるのかと思っていました。でも実際は違っていて、一緒に作るという感覚が分かっていなかったんです。
ヒアリングを続けるほど、「理想像」が実は曖昧だったことに気づきます。
大口様:
プロジェクトを進めていく中で、僕たちがイメージしている理想がぼんやりとしたものだと気づきました。それを一緒に考えていく中で、次第に形ができるっていうところが面白いなと思いながら取り組んでいます。
Fabeeeメンバーの常駐──同じ景色を見た時間
プロジェクト中盤、Fabeeeメンバーが一定期間現場に常駐しました。この時間が、双方の意識を大きく変えるきっかけになります。
大口様:
最初は「来ても暇なんじゃないかな…」と思ったほどでした(笑)。でも実際には、現場を直接見てもらったことで、その後の議論の質が変わりました。
実際に電話対応や営業所とのやり取りを間近で見たことで、Fabeeeの理解が一気に深まりました。
「電話はこんな頻度で来るのか」
「ここで情報が止まるから属人化が起きるのか」
「この確認だけで毎日これだけ時間が取られているのか」
現場を見るというのは、仕様書では絶対に埋まらない肌感覚を共有する行為です。その積み重ねによって、要望に対応する開発会社から課題を一緒に解くパートナーへと関係が変わっていきました。
営業主導→現場主導へ。発想の転換が起きた瞬間
当初は「東京の一部署のフローをデジタル化しよう」から始まったプロジェクト。しかし、議論を重ねる中で視点は大きく変わっていきます。
大口様:
途中から気づいたんです。単に一部署が便利になるだけじゃなく、現場の課題も一緒に解決できるシステムにした方がいい、と。
それは、地域の営業所が連携できていないという本質的な問題を見つめ直すことでした。
- 地域内に複数の営業所があるが連携が弱い
- 提携会社への手配が属人化している
- 空き状況を共有できず、機会損失が発生
これらをシステムでつなげば、地域の利用者にとってもメリットは大きい。

谷口様:
この仕組みが整えば、その地域の利用者ももっと便利にタクシーを使えるようになる。この構想は、第一交通産業だけでなく、業界全体にとっての価値になると感じています。
“社内の属人化からの解放”
成果――プロジェクトが生み始めた変化
まだプロジェクトは進行中ですが、すでにいくつかの変化が生まれています。
社内の属人化からの解放がはじまった

各案件を把握しているのが担当者だけという状態から脱却するため、システムへの情報集約が進みはじめています。
これにより、
- 担当者不在でも業務が止まらない
- 引き継ぎの負荷が下がる
といった、実務上のメリットが現れ始めています。
小規模事業者も参加できる業界インフラへ
第一交通産業株式会社のネットワークには、システムへの投資が難しい小規模事業者が数多く存在します。
谷口様:
自前でシステムなんて入れられない会社が多いんです。だからこそ、安価に共有できる仕組みが必要でした。これが整えば、横連携のハブにもなれる。
この仕組みは、業界全体をつなぐ共通基盤へと育つ可能性を秘めています。
“人を運ぶという価値はなくならない”
未来の展望――このプロジェクトはどこへ向かうのか
外向きのプラットフォームへ
谷口様が見据えるのは、業務効率化のその先です。
谷口様:
まずは運用を安定させること。その上で、外向きに展開していくフェーズに進みたい。最終的には、海外インバウンドの需要をしっかり取り込める仕組みにしたい。海外の白タクベースのアプリではなく、法律に沿った形で業界が主導する仕組みが必要なんです。
人を運ぶ行為は変わらない

自動運転やライドシェアが進んでも、谷口様は「人を運ぶ行為」そのものは残り続けると話します。
谷口様:
人を運ぶという価値はなくならない。だからこそ、安心して乗れるサービスを維持するためにも、業界として選択肢を広げる必要がある。
移動は生活の一部であり、社会の基盤です。だからこそ、業界全体で未来を選び取る必要がある──その強い意志を感じました。
――締めの言葉に代えて
インタビューの最後、谷口様がふとこぼした言葉が、ずっと耳に残っています。「最初はできたらいいねぐらいの感覚だったんです。でも今は、やらないと業界が持たないという気持ちに変わっています。」その変化こそ、DXの本質なのだと思いました。ツールを入れ替えることでも、アプリを作ることでもなく、現場の意識が変わることこそが、本当の変革の始まりなのだと。私たちFabeeeも、このプロジェクトに関われていることを誇りに思っています。そして、この挑戦はまだ始まったばかりです。次のフェーズへ、そしてその先の未来へ──。第一交通産業株式会社と共に歩む物語は、これからも続いていきます。
