概要
食品輸送を中心に国際物流事業を展開するフライングフィッシュは、2022年春、基幹システムの刷新を皮切りとする全社規模のDX推進に踏み切った。2023年10月には新システムに紐づく国際海上輸送貨物のトレースサービス『BORDERLESS2.0』のリリースを実現したが、彼らの“変革”はまだ始まったばかりだ。DX推進を本格化させたことで、社内では何が変わったのか。その先にどんな未来が見えてきたのか。DX推進室のコアメンバーが語る。
※ 本記事は2024年3月に実施したインタビューをもとに作成しています。
ご担当
- 代表取締役社長 植木誠氏
- 取締役 管理グループ グループ長 後藤光一氏
- 取締役 営業グループ担当 金子裕徳氏
- カスタマーサービスチーム チーム長新井梨紗氏
“変革”ポイント
意識
柔軟性のある新システムが社員の「もっと」を育む
業務
人海戦術からの脱却と業務可視化で生産性向上を実現
事業
物流データの統合と分析から新たなビジネスが動き出す
“変わらなければ明日はない”
現状維持バイアスからの解放
――DX推進に挑んだ経緯と、その後起こった全社的な変化をお聞かせください。
植木氏:
国際物流業界は紙の書類による手続きが多く、各社が独自システムを使っているため、デジタル化を進めるのがなかなか難しい業界です。しかし業界の特色を言い訳にしていては、DX推進は始まりません。昨今の目まぐるしい技術進化や社会情勢を受け、「変わらなければ明日はない」、「一刻の猶予もない」という想いを胸に、「アナログからデジタルへ」という目標を掲げてDX推進の動きを本格化させたのが、2022年4月頃のことです。
「何から始めるか」というゼロ地点から議論を始め、お客様から要望の多い貨物の最新位置のモニタリングを効率化・最適化するために、まず基幹システムの刷新から始めることに。その手段としてSalesforce導入を決断したところから、Fabeeeとの連携が始まりました。
現状の環境にこだわらず、顧客価値や売上の観点から何をすべきなのか議論を重ね、Salesforceをカスタマイズして生まれたのが、国際海上輸送貨物トレースサービス『BORDERLESS2.0』です。同サービスは、これまでデータの手入力や電話対応によって支えられていた輸送状況のモニタリングをデジタル化し、お客様側もわかりやすいビジュアルで同情報をチェックできるお客様向けのWebシステムです。『BORDERLESS2.0』リリースを起点に、DX推進に対する前向きなマインドが社員の中に芽生え始めました。
たとえどんなに優れたテクノロジーでも、それを新たに学んで使いこなすことと、従来の慣れたやり方を比べれば、圧倒的に後者のほうが楽です。しかし従来のやり方に固執していると、やがて時代に取り残されていきます。だから私たちは、変わるきっかけが必要でした。現状維持バイアスから解放されて、新しいテクノロジーを前向きに受け入れる。その姿勢を全社的に獲得できたことこそ、基幹システムの刷新をきっかけに実現した大きな“変革”だと感じています。
“柔軟性×スピード=変われる自信”
システムの拡張性と社員の意識変革
――基幹システム刷新を受け、社員の姿勢にはどのような変化が表れていきましたか。
金子氏:
Salesforceは柔軟性が高く、型にこだわらないカスタマイズができるのが魅力で、リリースから約半年が経った現在も機能の調整や改善を進めています。新たなシステムの柔軟性を理解した社員からは、自発的に改善のアイデアや意見が出てくるようにもなりました。ビジネスの拡張性や社員主導のサービス改善といったところに、私自身ワクワクしています。
植木氏:
Fabeeeの開発対応や機能提案が非常にスピーディであったことも、DXに対する全社的な関心が高まったひとつの要因だと思います。以前利用していたシステムは、マイナーなカスタマイズすら十分にできず、何かをひとつ変えるのにも数カ月間かかっていました。一方Fabeeeは「(技術的に)これはできますか?」と訊けばすぐ対応してくれますし、「こういうことならできます」という提案もしてくれます。こうした「できる」の積み重ねが、社員一人ひとりの「ならばもっとこうしたい」という意欲へとつながっていったのではないでしょうか。
“データが見える、つながる、やりやすい”
学びの浸透と現場の業務変革
――現場視点では、今回の基幹システム刷新にはどのように対応していきましたか。
新井氏:
はじめはアップデートのスピードや、変化の波に乗り切れない社員が少なからずいました。そこは社員一人ひとりのITリテラシーの違いに配慮しつつ、新システムの操作について学ぶ全社員対象の説明会を実施したり、理解の深い社員がつまづいている社員をフォローしたりと、さまざまな工夫を重ねていきました。
システム刷新後の業務については、これまでは業務ごとに異なるシステムを使っていて分散していたデータや業務内容が統一・可視化されたことで、非常にやりやすくなった印象があります。Excel入力などのルーティン・ワークが大幅に削減されたのも大きな変化でした。
後藤氏:
基幹システムをゼロから作りなおすことについては、数字を管理する立場からすると、正直期待以上に不安が大きかったです。システム刷新のあとには最終的に数字を合わせる類のシビアな作業も残されていましたから、そこに対する一定のプレッシャーはありました。ただ、改めて今回の挑戦を振り返ってみると、何ができるのか模索し、現状にとらわれず議論を広げられることは非常に刺激的でしたし、Fabeeeが物流業界の知見や背景をものすごいスピードでキャッチアップしてくださったので、私たちの準備に対する負担は想像以上に減りました。
“システム刷新はゴールではなくスタート”
データを主軸に始まる事業変革
――現場視点では、今回の基幹システム刷新にはどのように対応していきましたか。
植木氏:
今年のテーマは、『BORDERLESS2.0』のさらなる利活用のケースを増やしていくこと、そして社内に浸透させていくことです。4月1日からはDX推進室を新設し、社としてDX推進に注力していく姿勢を改めて示すことを決めました。
私たちは今までフォワーダーとして物流サービスを提供することを主事業としてきました。今後は『BORDERLESS2.0』とSalesforceの連携によって取得・統合したデータを分析し、そこから付加価値を生み出したり、カスタマーサービスを充実させたりすることを、フライングフィッシュの新たな強みとして打ち出していきたいと考えています。これは旧来のフォワーダーにとどまらないビジネスモデルを創出すること、そして同業界におけるDX推進のリードカンパニーの姿を示すことにもつながると考えています。一方、私たちにはこれまで顧客との間に築いてきた信頼関係という強みもあるので、デジタルと信頼関係をハイブリッドに持つ企業として、独自のポジションを確立していきたいです。
今回の取り組みを通じて、社内には新しい仕組みやテクノロジーを受け入れる文化が浸透しました。Chatter[※] 導入時のエピソードを例に挙げると、社員自らがコミュニケーションルールを設計し、活発な利用が促進されるよう工夫している姿が見られました。こうした自発的なアイデアをもとにDXが進んでいく様子を見て嬉しく感じると共に、こうした動きが増えていくことが本当の意味での“変革”なのではないか、とも感じています。
※ Salesforceが提供する企業向けSNS・ビジネスチャットツール。
新井氏:
変わることの喜びを感じられたことが、社員一人ひとりの意識や行動の変化につながっていると思います。今回の基幹システム刷新を受けて、従来の業務が大幅に削減されただけでなく、今後もシステムを通じて業務改善し続けられるということを体感できました。また、改善し続けられるからこそ「その変化に頑張って自分もついていこう」という意欲がわいてきたんです。
後藤氏:
Fabeeeとの連携の道のりを振り返ると、議論を重ねながら何ができるか模索している日々を「楽しい」と感じたことが印象に残っています。もちろん楽しいだけでなく、現実的に乗り越えなければいけない山はたくさんありましたが、そこを乗り越えて今後につながる学びを得られたこと、システムを通じて「できること」と「できないこと」の仕分けをできたことが、大きな実りとなりました。
金子氏:
「現状あるものの中でどうするか」という考えに縛られていたことを、その縛りから解放されたことで初めて実感できました。私は営業グループを率いている身であり、本来はシステム開発に直接携わることのない立場なのですが、今回の取り組みを通じて技術領域に対する意識が変化し、理解も深まりました。自身が感じた新しいものを受け入れていくことの大変さと楽しさを社員に共有しつつ、いよいよスタートラインに立ったフライングフィッシュの事業変革を全員で推進していきたいです。