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投稿日 2023.07.26

最終更新日 2023.07.26

市場急成長のリテールメディア、日本と海外の市場規模や売上、利益率を比較してみた。

市場急成長のリテールメディア、日本と海外の市場規模や売上、利益率を比較してみた。

リテールメディアとは?

「リテールメディア(Retail media)」とは、小売業者で得られた購買記録の情報を活用した、商品やサービスの販促を目的とした広告媒体全般、あるいは販促のための仕組みのことを指します。
 
従来のウェブ広告では、ウェブサイト上で集積されたデータに基づいて広告などの販促活動が行われていました。リテールメディアでは、ウェブサイト上から集めた情報だけでなく、実店舗における購買データを組み込んだ広告を配信します。また、リテールメディアでは、ウェブサイト上の情報と、実際の店舗の販促情報を合わせます。これによって、ターゲットに対してより効果的な販促活動が期待できます。
 
リテールメディアをより詳しく知りたい方はこちら

なぜ市場が急成長しているのか?

なぜ市場が急成長しているのか?
リテールメディアは、その市場が急成長したことから、注目を集めるようになりました。では、なぜリテールメディアの市場は成長しているのでしょうか。その主な要因には次のようなものが挙げられます。

サードパーティCookieの規制

Cookieとは、ウェブサイトを閲覧する際に使用される仕組みであり、閲覧履歴やログイン情報などを記録する機能を持っています。ウェブサイトを訪れるたびに、閲覧履歴が蓄積される仕組みになっています。サードパーティCookieとは、訪問したウェブサイトとは別のドメインから発行されているCookieです。アクセスしたサイトのファーストパーティCookieとは直接的な関係はありません。例えば、閲覧履歴に基づくウェブ広告の表示は、多くの場合、サードパーティCookieによってユーザーの情報を集めることで実現してきました。サードパーティCookieの機能は、ウェブマーケティングにおいて重要な役割を果たしてきたといえるでしょう。
 
しかし、近年では個人情報保護の観点から、サードパーティCookieへの規制が強まっています。この流れを受けて、Apple社およびGoogle社は、それぞれのブラウザにおいて、サードパーティCookieの利用規制を始めました。AppleのSafariでは、デフォルト状態において、サードパーティCookieが全面的にブロックされています。Google Chromeは2024年を目途に、サードパーティCookieの廃止を宣言しています。
 
GoogleやAppleがサードパーティCookieの規制を発表したことは、ウェブ広告関連の業界に大きな衝撃を与えました。従来のやり方ではウェブ広告を発信できなくなるためです。そこで期待を集めるようになったのが、ファーストパーティ・データ(小売業者が自分たちで保有している情報)を活用するリテールメディアです。リテールメディアは、サードパーティCookieが使えない新たな時代における、消費者へのアプローチ手法として注目されています。

テクノロジーの進歩と普及

リテールメディアの実現には、広告配信やデータ活用を容易にする技術が不可欠です。最近のAI(人工知能)IoT(Internet of Things)などのITテクノロジーの発展と普及は、リテールメディアを実現するための重要な基盤となっています。特に、精緻なターゲット広告を行うには、消費者との接点から収集した多種多様なデータを統合し、分析して、広告配信に活用する必要があります。そのために用いる、データプラットフォームの進化や、AIおよび機械学習技術によるデータ分析の発展と普及は、リテールメディアを実現する上で重要な転換点となったと言えるでしょう。
 
また、ECサイトや自社アプリの導入のハードルが低下したことも、リテールメディアの成長に影響を与えたと考えられます。以前は、ECサイトやアプリの導入には高額な開発・運用コストが必要でした。ですが、現在は専用ツールを利用することで、安価で高品質なECサイトやアプリを導入できます。さらに、ノーコードやローコードと呼ばれるプログラミング不要のツールを用いれば、複雑なプログラミング言語を完全に理解していなくとも、直感的にアプリの作成や編集ができるようになりました。これにより、小売業者が自社でECサイトやアプリといったメディアを持つことが容易になっています。

消費マインド活性化への期待

モノが売れない時代とも言われる長期にわたる経済成長の低迷により、消費者の消費意欲は減退しました。小売業界では消費者に直接的に「モノ」を販売するシンプルなビジネス展開が困難となり、消費マインドの低下が売上に大きな影響を及ぼしています。特に日本は、少子高齢化の抑制が進まず人口縮小の過程の中にあります。総務省の統計によれば、2021年に日本の人口は64万4千人減少しました。これは過去最大の減少幅です。人口縮小は小売業界に致命的なまでの影響を与えます。なぜなら、モノを購入する消費者の数が減少することは、直接的に売上の低下に結びつくからです。
 
このような時代の変化の中で、従来のビジネスモデルだけでは売上規模を維持するのが困難になることは容易に想像できます。そのため、小売業界は新たな収益化の選択肢としてリテールメディアに注目するようになりました。

日本と海外のリテールメディアの市場規模の比較

日本と海外のリテールメディアの市場規模の比較
株式会社CARTA HOLDINGS(カルタホールディングス)が、リテールメディア広告市場調査の報告を2022年9月に公開しました。これによれば、日本におけるリテールメディア広告市場は、2021年に90億円だったものが、2022年には135億円に成長すると予測。2026年には805億円まで拡大すると推論立てました。なお、市場規模とは業界全体の総売上を指します。
 
リテールメディア広告市場規模推計・予測
引用元:CARTA HOLDINGS、リテールメディア広告市場調査を実施
~リテールメディア広告市場は2022年に135億円、2026年には805億円と予測~

世界の市場におけるリテールメディアは、日本とは比べものにならないほどの大きな規模となっています。米投資ファンドのベインキャピタル(Bain Capital LLC)によれば、2022年に670億ドル(約9.4兆億円、以下1ドル140円として計算)だったリテールメディアの市場規模は、2023年に900億ドル(12.6兆円)になると推測しました。さらに、2024年には1400億ドル(約19.6兆円)になるとしています。
 
世界のリテールメディア市場のおよそ半分を占めるのはアメリカです。2023年における市場規模はおよそ408億ドル(5.7兆円)になると推測されています。

日本と海外のリテールメディアの売上、利益の比較

日本と海外のリテールメディアの売上、利益の比較
ボストン・コンサルティング・グループ(Boston Consulting Group)の調査によれば、小売企業はリテールメディアの市場規模の70%から90%の範囲で利益(マージン)が確保できると試算しました。
 
前述の市場規模(業界全体の総売上)にこの試算を当てはめると、2022年には約469億ドルから603億ドル(6.6兆円から8.4兆円)の利益が発生したことになります。2024年には約980億ドルから1260億ドル(13.7兆円から17.6兆円)の利益が生まれることになるでしょう。また、アメリカでは2023年に発生するリテールメディアの利益は、約286億ドルから367億ドル(4兆円から5.1兆円)と試算できます。
 
なお、アメリカでは市場の約77.8%をAmazon(Amazon.com, Inc.)が占めています。そのため、2023年には約223億ドルから286億ドル(3.1兆円から4兆円)の利益をAmazonはリテールメディアで得ることになるでしょう。
 
日本のリテールメディア市場の利益はいくらになるのでしょうか。ボストン・コンサルティング・グループの試算を当てはめれば、2021年には約63億円から81億円の利益が発生したことになります。2022年のリテールメディアによる利益は約95億円から122億円になると予想できます。2026年の利益は約564億円から725億円に成長することでしょう。以上のことから海外と日本の市場規模や利益を比べると、日本のリテールメディアの規模は圧倒的に小さいことがわかります。その割合は1%にすら及びません。これからの成長が期待されるところです。

今後の日本のリテールメディアについて

現状における日本のリテールメディアは、まだ初期段階にあるといえます。一方で2012年頃からリテールメディアに着手が始まったアメリカの市場規模は、2023年には408億ドル(5.7兆円)となる見込みです。また、アメリカのイーマーケター(eMarketer, Inc.)の調査によれば、世界の広告市場における、デジタル広告費に対してリテールメディアが占める割合は、2019年に10.0%だったものが、2023年には18.1%に到達するそうです。この状況を見るに、日本においてもリテールメディアが急成長するのは、自明であるといえるでしょう。
 
ただし、日本のリテールメディアが成長するにあたっては課題が存在します。現状、日本で行われているリテールメディアは、小売店から得た情報を元にした、従来型のPR活動から脱却できていません。リテールメディアをより効果的なものにし、市場規模を拡大させるには、さまざまな施策との組み合わせが欠かせないでしょう。消費者のすべての行動を想定することも大切です。複数のチャネルでターゲットにアプローチし、購買に至るまでのあらゆるレベルにおいてサポートする、フルファネル(Full Funnel)型の活動へとシフトしていく必要もあるでしょう。

この記事の監修者

冨塚 辰

冨塚 辰

プロジェクトマネージャー