そもそもリテールメディアとは
リテールは、「一般小売」を意味する言葉です。リテールメディアとは、流通・小売事業者がマーケティング活動を行う際、使用するメディアのことを言います。例としては「企業が自社のアプリを使って広告を発信」したり、「自社のECサイトで広告を発信」、その他には「店舗にディスプレイ(デジタルサイネージなど)を設置し広告を発信」など、さまざまな媒体を介したマーケティングが考えられます。そしてこれらの媒体はすべてリテールメディアです。また、これらの媒体を介して顧客の購買データを集める仕組みも、リテールメディアに含まれます。
リテールメディアを活用する消費者側のメリットは、自分の求める商品などの情報をより得やすくなり、ニーズにマッチした買い物を叶えられることです。事業者側のメリットは、リテールメディアを介して購買データを収集し、より顧客のニーズに沿った商品を提供でき、その結果売上のアップにつなげられることなどが挙げられます。このようなリテールメディアはコンビニ業界でも注目を集めており、各社に推進の動きが見られます。
リテールメディア国内事例2選
国内事例① セブンイレブン
日本国内のコンビニでトップシェアを誇るセブンイレブン。2022年に海外でリテールメディアの急速な成長が話題を集め、セブンイレブンはいち早くこれに反応しました。2022年9月に「リテールメディア推進部」を設置し、広告事業に本格的に取り組み始めたのです。セブンイレブンの広告活動の柱は主に3つ。アプリを利用した広告発信、外部メディアと連携した広告発信、そして店舗のデジタルサイネージによる広告発信です。セブンイレブンのアプリは登録会員数が約2,000万人おり、この会員にアプリを介して広告を届けることにより、より購買意欲が高まると期待されています。また、アプリのユーザー向けのクーポン発行なども行い、販促を強化しています。
外部メディアとしては、Youtubeなどと連携し動画広告を配信。このYoutubeの広告活用により、セブンイレブンのホットスナックの店頭売り上げがアップしたと発表されました。デジタルサイネージは、東京都内の直営店12店舗への設置からスタート。店内に幅広の大きなデジタルサイネージを取り付け、新商品やキャンペーンなどの情報を映しています。全国のセブンイレブンの店舗には、1日あたり約2,000万人が来店していると言われています。この膨大な人数の来店者達に対し、より効果的な広告を届けていくことがセブンイレブンの狙い。現在は、関東エリア70店舗を対象にデジタルサイネージを導入し、実証実験を続けている状況です。セブンイレブンでは新商品の発売や期間限定キャンペーンなどを積極的に行っていますが、そのすべてが満遍なく顧客に届いているとは言い切れません。顧客にセブンイレブンが発信する情報が行き届くようにするとともに、購買データを分析し、より顧客のニーズにマッチした商品を届けるため、リテールメディアが活用されています。
国内事例② ファミリーマート
日本国内の大手コンビニ会社・ファミリーマートも、リテールメディアを活用したマーケティングに着手しています。ファミリーマートは、2023年7月にリテールメディアを意識した戦略を発表。コンビニ店舗を商品の売り場としてだけでなくメディアとしても再定義し、さまざまな情報を発信する場として活かしていくこと、そうして店舗をいつでもどこでも顧客とつながれる「カスタマーリンクプラットフォーム」として構築していくことが、この戦略の狙いです。実は、ファミリーマートは2019年からリテールメディア分野に投資を行い、活動を展開しています。現在ファミマのアプリである「ファミペイ」のユーザー数は約1,500万人まで増加、また積極的なデジタルマーケティングで3,000万件を超える購買データを集めました。このような成果やデータを活かしながら、よりリテールメディアに注力していく方針です。
具体的な手法は、店舗に設置しているデジタルサイネージやファミペイ、POP広告、デジタル広告などを互いに連動させながら、多角的に顧客が必要とする情報を届けていくもの。2023年に入ってからはリテールメディアの効果検証にも力を入れています。例えば、ファミリーマートでは全国約4,600店舗にデジタルサイネージを設置しています(2023年中に10,000店に設置店舗を拡大予定)。このデジタルサイネージを使った広告と、店内のPOP広告を連動させたプロモーションを実施。デジタルサイネージなしでPOPのみの店舗と比較し、一部商品の売上が10%アップしました。ファミリーマートはリテールメディア事業において、2023年の戦略発表から3年後には50億円、5年後には100億円の利益を出すことを目標に掲げています。
リテールメディア海外事例2選
海外事例①ファミリーマート(台湾)
海外のコンビニでもリテールメディアを意識した活動が行われています。日本大手コンビニのファミリーマートは海外でも多数の店舗を構えており、台湾には約4,000店舗が存在します。台湾では近年急速にデジタル化が進んでいる背景があり、ファミリーマートはこの流れを汲んでDX化に取り組みました。このDX化が成功し、リテールメディアの推進にも大きな好影響を与えています。具体的にファミリーマートが実施したのはアプリの導入です。「Fami Port」というアプリを導入し、このアプリでユーザーの購買意欲をアップさせていったことが成功の大きな理由と言えます。アプリでは、アプリユーザーのみのお買い得セールの情報を受け取れます。また、ポイント付与やレシートのクラウド保存などもアプリで可能です。
ファミリーマートはこのアプリから得られた購買データを分析し、ユーザーが求めている商品や割引などを考え、さらにその情報をユーザーに届けました。このように、アプリを介したリテールメディアが功を奏し、台湾におけるファミリーマートのシェアは一気に増したのです。台湾は非常にコンビニの数が多く、密集度は日本以上です。そのため、コンビニ各社の顧客獲得競争も熾烈であり、各社がさまざまな趣向を凝らしたマーケティングを行っています。いち早く台湾市場でアプリを導入したファミリーマートは、セブンイレブンとともに台湾においてトップクラスのシェアを誇っており、今後も店舗や事業の拡大が見込まれます。
海外事例②ローソン(中国)
中国には約30万店のコンビニ店舗があると言われています(2022年末時点)。この巨大なコンビニ市場を持つ中国で、現在急速に事業を拡大しているのがローソンです。ローソンが中国に初めて進出したのが1996年。これは、日系コンビニで初の中国進出でもありました。コンビニが黒字を出しにくい中国市場で長年苦戦し続け、2020年からようやく黒字化に転じます。そこからの躍進は目覚ましく、中国における店舗数は2022年7月で5,000店舗を超え、2023年8月には6,000店舗に達すると見込まれています。2025年度には10,000店を超える目標の元、現在も店舗数を拡大中であり、中国の日系コンビニの中ではトップシェアを好走中です。
ローソンの中国コンビニ市場での好調の背景には、リテールメディアも大きく影響しています。2020年に世界的に流行した感染症により、消費者の買い物スタイルは急激に変化しました。ローソンはこの変化に合わせ、デリバリーサービスやデジタル化など、顧客が商品を購入しやすいサービス・システムを積極的に取り入れたのです。その中で、アプリを使った販促にも力を入れました。中国で展開しているローソンアプリでは、天候や曜日を踏まえた広告や情報が発信されます。また、中国のローソン店舗でも、デジタルサイネージの設置が行われ、店舗内での販促の幅がより広がりました。こうした顧客により添った情報配信も売上アップを支え、ローソンの事業拡大の追い風になっていると考えられます。